研究課題/領域番号 |
15H04669
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
古川 貴久 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (50260609)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経 / ニューロン / 視覚 / 網膜変性 / 再生 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
我々は、中枢神経系の一部である網膜の視細胞の発生と維持の遺伝子制御機構の解明やシナプス形成の分子機構、さらには網膜色素変性症などの発症機構の解析を行ってきた。視細胞の運命が阻害されると網膜介在ニューロンであるアマクリン細胞に運命転換する。抑制性の介在ニューロンは神経回路機能に必須であるが、その発生機構解明はほとんど未解明である。本研究では、相反運命的な視細胞とアマクリン細胞の発生と生存の遺伝子制御機構の解明を進め、中枢神経系における細胞運命決定機構の分子メカニズムの理解を目指す。我々は以前、心筋細胞の発生に関わる転写因子Med2dが網膜視細胞と双極細胞に強く発現すること、転写抑制因子のPrdm13がアマクリン細胞に強く発現することを見出した。本研究において、Mef2dノックアウトマウス網膜の解析からMef2dが視細胞と双極細胞の生存に必須であり、転写因子Crxと協同してアレスチンを含む光受容関連遺伝子の発現を活性化することを見出した。このことから、転写因子Mef2dが視細胞の成熟に関わる遺伝子群の転写活性化を通じて視細胞の発生を制御することが明らかとなった。さらに、Prdm13ノックアウトマウスの解析から、Prdm13が網膜介在ニューロンであるアマクリン細胞の分化に必須であり、アマクリン細胞のサブタイプ分化を促進する因子であることを見出した。Prdm13ノックアウトマウスの視覚機能を測定したところ、空間周波数、時間周波数、コントラスト感度が野生型に比べ上昇しており、Prdm13は正常な視覚機能に重要であることを見出して報告した。本研究成果は網膜変性症を含む、失明にいたる網膜疾患の視覚再生研究の基盤となると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは平成27年度の実験として、(1)網膜視細胞分化と維持の新たな制御機構の解明、(2)網膜介在神経細胞の細胞運命決定機構の解明、(3)網膜におけるマイクロRNA-124aの機能解明と遺伝子発現制御機構の解析、を計画した。(1)網膜視細胞分化と維持の新たな制御機構の解明の研究項目では、主に転写因子Mef2dによる網膜視細胞発生と生存の新たな制御機構の解明とMef2d欠損マウスの表現型解析を計画した。これらについて順調に解析が進み、Mef2dが視細胞の成熟に関わる遺伝子群の転写活性化を通じて視細胞の発生を制御することを明らかにし、論文として報告した。(2)網膜介在神経細胞の細胞運命決定機構の解明の研究項目では、アマクリン細胞に特異的に発現する転写制御因子Prdm13遺伝子欠損マウスの表現型解析とPrdm13の網膜への強制発現を行い、アマクリン細胞の特定のサブタイプの分化に必須であることを見出した。さらに、Prdm13欠損マウスの網膜電図および視運動性眼球運動の解析を行い、Prdm13が視機能に必須であることを見出し、論文として報告した。(3)網膜におけるマイクロRNA-124aの機能解明と遺伝子発現制御機構の解析の研究項目においては、3つのmiR-124a遺伝子座を全欠損したES細胞を3ライン得て、培養系で神経細胞に分化させ、分化についての解析を行うことができた。 以上のように、計画した研究をほぼ順調に進め成果を得ることができたことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通りの研究を進めていくとともに、新たな知見に基づく研究も展開する。昨年度に、ヒトPrdm13ゲノム領域の変異によるPrdm13過剰発現が、ドライタイプの黄斑変性症の原因となっていることが報告された。これを踏まえてPrdm13の遺伝子量と黄斑変性の関連を探るため、本年度はヒトPrdm13遺伝子座を含むBACクローンのトランスジェニックマウスを作製して、Prdm13の過剰発現による網膜の発生や網膜神経細胞生存に対する影響を明らかにする。また、我々はアマクリン細胞と細胞運命において相反関係にある視細胞に特異的に発現する転写抑制因子Samd7, Samd11, Panky, Panky-likeを同定している。これらの遺伝子のKOマウスを作製・解析し、アマクリン細胞と視細胞との細胞運命決定や分化に対する機能メカニズムを明らかにしていく。
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