研究課題
TRICチャネルサブタイプ(TRIC-AとTRIC-B)はホモ三量体を形成して小胞体や核膜に分布し、ユニークな細胞内K+透過性チャネルである。遺伝子欠損マウスの種々の細胞系で小胞体Ca2+放出の減弱が観察されることから、TRICチャネルにはCa2+放出を促進するカウンターイオンの膜透過に寄与する生理的機能が想定されている。近年、TRIC-BチャネルをコードするTRIC-B/TMEM38B遺伝子において点変異や欠失変異を伴う骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)の症例が報告されているが、その全身性の骨ミネラル化障害のメカニズムは不明であった。H28年度の本研究においては、骨形成不全症様異常を示すTric-b欠損マウスに注目した研究を中心に遂行した。TRIC-B欠損骨芽細胞では小胞体ストアにて過剰Ca2+貯留が観察され、その異常により小胞体内腔におけるコラーゲン生合成のプロセッシングが障害され、プロコラーゲンが小胞中に過剰蓄積される結果、骨基質コラーゲン量が低下することを明らかにした。尚、本成果については論文発表に至った。TRIC-B遺伝子変異に起因するヒト骨形成不全症においても、重篤なTRIC-Bチャネルの機能障害が推定されており、マウスモデル系での観察と同様の病態メカニズムが想定される。一方、TRIC-B変異による骨形成不全症患者に対してビスホスホネート投薬により骨密度の改善効果が観察されたとの報告があるが、極めて限定される症例における定量的解析データの取得は困難であるものと予想される。この希少疾患の治療のみならず、骨密度改善薬の開発に向けて、TRIC-B欠損マウスは有用なモデル実験系を提供することも期待される。
2: おおむね順調に進展している
近年の論文発表では様々な査読コメントが寄せられて、その対応のために若干の研究遅延が発生した。しかしながら、ほぼ順調に本研究は進展しているものと自己判断する。
上述のTRIC-B欠損マウスが示す骨形成不全症様症状の組織学的観察にて、骨芽細胞のむならず、軟骨細胞においても微細形態異常が観察された。ヒト骨形成不全症患者においては間接障害も報告されており、その関連も興味深い。本研究の最終年度となるH29年度には、TRIC-B欠損軟骨細胞に注視する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 備考 (1件)
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