研究課題
本研究では心房リモデリング時の不整脈基質形成に関わる新しい機序を探索することを目的として、ストレス応答分子TRPMチャネルに着目した解析を行った。その結果、(1)不死化心房筋細胞株HL-1による2次元拍動シートを作成し、このシートから安定して活動電位を(β-escinを用いて)記録する方法を新たに開発した。これらを用いた実験の結果、TRPM4チャネルとNa-Ca交換機構(NCX)の活性が密接に連動し自発性活動電位の発生頻度を効果的に制御していることを新たに見出した。更に、この結果をHL-1の数理モデルに基づいた予備的なシミュレーションによって再現することができた。 (2)アンギオテンシンIIのマウスへの持続投与によって心房リモデリングを誘導し、これより急性単離した心房筋細胞を用いてTRPM4チャネルの発現・活性増加とそれに伴う活動電位の有意な延長を認めることができた。(3)HL-1と線維芽細胞3T3の共培養によって形成した2次元シートにおいて、後者の相対的な発現増加が前者で生成された興奮の伝播を抑制することを見出した。この抑制は線維芽細胞の比率増加でより顕著となり、ギャップ結合阻害薬の投与でほぼ完全に消失した。(4)心房から単離した線維芽細胞の培養法確立と電気生理学的な予備的検討を行った。以上より、心房の不整脈機序を検討するための心房筋細胞/線維芽細胞の共培養2次元シートの作成法をほぼ確立すると同時にその有用性も確認することができた。また、これらの実験に付随して、TRPM4チャネルと機能的に連関し不整脈基質となる可能性のある新規機序が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
培養心筋および線維芽細胞による2次元シートの作成法・実験法が確立した。2次元シートにおける実験結果が、本研究のスタート時までに得られていた、TRPM4チャネルのゲーティングキネティクスを組み込んだ活動電位モデルでほぼ忠実に再現でき、モデルの有用性を確認することができた。
初年度の成果を基盤に本研究目的の遂行を推進するため、以下の実験、解析、数理モデル作成を遂行する。(1) 単離心房線維芽細胞の電気生理学的特性を詳細に検討して数理モデル化し、単一心房筋活動電位モデルと連結させた2次元ハイブリッド心房モデルを開発する。 (2) 心房から急性単離した細胞クラスターを用いた2次元実験系を確立し、その興奮伝播特性の詳細な検討を行い、上述の2次元心房モデルの精緻化を行う。(3)これと並行して、心筋興奮・伝播に関与する重要なイオンチャネル・輸送分子の発現量・分布の変化について、心房の各領域における詳細な検討を行い、実効性のある3次元心房モデルの開発を進めるためのデータベースを作成する。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
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