研究課題
本研究は、突然死に代表される重篤な医薬品副作用の予防を長期目標とし、ヒトiPS 細胞とコンピュータシミュレーションを統合心したアプローチにより、心毒性を予測する新たな方法を構築することを目的とする。本年度は,ヒトiPS細胞由来心筋細胞モデルを構築するために、イオンチャネル電流を計測し、成人心室筋の細胞モデルの値と大きなギャップはないかどうか調べた。まず、内向き整流性(IK1)チャネル機能が成人心室筋モデルの1割程度であったので、活動電位波形およびhERG阻害作用に対するIK1チャネルの機能の影響について、シミュレーションモデルを用いて調べた。その結果、洞房結節等のペースメーカー細胞と同様に,ヒトiPS由来心筋細胞においてもIK1機能が自動能消失の決定因子であり、IK1機能が低いとhERG阻害が静止膜電位に影響することが示された。そこで、アデノウイルスベクターでKCNJ2遺伝子を導入したiPS由来心筋を作成したところ、自動能は消失し、活動電位はプラトー相を持つ心室筋様波形を示すようになり、hERG阻害の影響は、活動電位幅の延長作用のみに限定され、シミュレーション結果が実証された。本結果は、ヒトiPS由来心筋を用いて、イオンチャネルブロッカーの作用を解析する際に有用な情報を与えるものである。ヒトiPS由来心筋細胞の利用は、in vitroでヒト心筋の収縮障害を検証できる点も大きな利点である。そこで、超高速ビデオ画像から動きベクトルを算出して、非侵襲的に、抗がん剤(ドキソルビシン)の心毒性を調べた。急性的に収縮ー弛緩時間の延長が見られた後、24時間以上後の慢性作用では収縮および弛緩速度が低下した。一般に抗がん剤の心毒性は慢性的に見られることから、本法は抗がん剤心毒性評価に有用であると思われる。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、ヒトiPS 細胞とコンピュータシミュレーションを統合心したアプローチにより、心毒性を予測する新たな方法を構築することである点を鑑み、当該年度は下記の2つの事項が進展したと言える。まずは、ヒトiPS由来心筋細胞において、内向き整流性カリウムチャネル(IK1)機能が活動電位波形のみならず、hERG阻害に対して与える影響を調べるためのシミュレーションモデルを作成し、定量的に実証することに成功した点である。次に、抗がん剤の心毒性(収縮障害)が慢性的に現れることを定量的に解析する実験系を構築した点である。以上の2点は、本研究計画の遂行において基盤となる技術の確立を意味しており、次年度以降の展開に向けて、順調に進展していると判断できる。
ヒトiPS細胞由来心筋細胞モデル(viPS-CM)の構築にあたって、電気的現象の再現には概ね成功した。しかしながら、コンダクタンスが小さいカリウムチャネルの電流値を生理的条件で計測することは不可能であった。そこで、細胞内外液や刺激電位の条件を最適化して、既にモデルが存在するモルモット心室筋細胞の値と比較した相対値により、モデル用パラメータを求める必要がある。平成28年度以降に予定しているviPS-CMモデルの補正として、モルモット心室筋細胞のデータとの比較を行っていく。その結果を、今後の2次元および3次元のシミュレーションにも利用することで、より臨床に近い予測結果をもたらす事が出来る評価系を構築する。抗がん剤毒性の評価系については、これまで開発した非侵襲的な測定法を利用することで、ヒト特有なおかつ臨床データにトランスレート可能な分子メカニズムの解明を目指す。
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すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 5件、 招待講演 7件) 図書 (1件)
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