研究課題
本研究は、突然死に代表される重篤な医薬品副作用の予防を長期的目標とし、ヒトiPS細胞とコンピューターシミュレーションを統合したアプローチにより、心毒性を予測する新たな方法を構築することを目的とする。初年度から3年間をかけて、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の特性について、パッチクランプ法を中心とした技術により定量的に解析した。その結果、内向き整流性カリウムチャネル(IK1)の機能が成体心室筋モデルと比較して、約10%であるという結果を得た。次に、IK1をコードするヒトKCNJ2遺伝子を市販ヒトiPS細胞由来心筋細胞に導入することで、成体心室筋(成熟心筋)の細胞特性を模倣することに成功した。この心室筋様性質は、細胞シートから細胞外電位を計測した場合にも保たれており、刺激に応じて細胞興奮を惹起し薬剤の頻度依存性を検討することが可能となった。本論文は、Journal of Pharmacological Sciencesに受理された。今年度は、昨年度より本格的に開始した抗がん剤の心不全毒性を評価する実験系の背景となる基礎研究に重点を置く。昨年度には、動きベクトル解析法によりヒトiPS細胞由来心筋細胞の拍動を精密に解析することで、収縮関連分子の発現パターンによる収縮能の違いを評価することが可能であるという予試験結果を得た。今年度は、収縮関連分子の発現パターンによって、薬物反応に違いがあるかどうか検討し、本画像解析による評価系が薬物反応評価系としての有用性を明らかにすることを目指す。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、ヒトiPS細胞とコンピューターシミュレーションを統合したアプローチにより、心毒性を予測する新たな方法を構築することである点を鑑み、当該年度は下記2点が進展したと言える。1点目は、カリウムチャネルの機能を中心として、ヒトiPS細胞から分化した心筋細胞の機能を定量的に解析する方法を構築・整備した点である。昨年度は、小さいコンダクタンスのカリウムチャネルの計測を可能にする実験手法の開発を中心に行い、当該年度はその応用として、薬物反応の評価を行った。KCNJ2を強発現することで、pacingに応じて興奮する分化心筋細胞シートを作成し、カリウムチャネル阻害剤の頻度依存性を評価した。その結果、臨床で報告されているように、IKsチャネル阻害による興奮時間延長は高頻度刺激でより増強されることを実験的に示すことに成功した。2点目は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞の細胞特性によって、心収縮機能を示す動きベクトルの波形が異なることを定量的に示した。今後は、この結果を薬剤反応の解析に応用していきたい。
平成30年度以降の予定を下記に記す。ヒトiPS細胞由来心筋細胞の活動電位シミュレーションの構築については、IK1カリウムチャネルの電流成分の値を実験的に決定し導入することにより、自動能の形成に大きな役割を示すことが分かった。ただし、静止膜電位が変化したことで、細胞内イオン濃度のバランスが崩れ、膜輸送分子付近のイオン濃度が不明となるため、イオン輸送交換体はいずれの向きに輸送しているか不明となってしまうことが、シミュレーションから示唆された。この問題を解決するためには、細胞内ナトリウム濃度を計測する必要があると考え、新たに細胞内ナトリウム濃度を計測することを計画した。収縮機能については、心房もしくは心室に特異的に発現している収縮蛋白に着目し、それぞれの分子型をビデオ画像からの動きベクトル解析のみで判定する技術を構築することを目指す。この技術を薬物作用の評価に応用することも同時に目指す。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 3件、 招待講演 7件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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