研究実績の概要 |
エリスロポエチンは貧血治療薬として用いられている赤血球造血に必須のサイトカインであるが、その受容体の発現が造血細胞以外にも多くの臓器で検出されることから、心血管系や神経系などでも機能することが示唆されている。本研究では、エリスロポエチンの造血以外の機能を探索し、その作用機序を解明することを目的としている。 これまでに、脳において低酸素誘導的にエリスロポエチンを発現する細胞を同定しており、本年度は神経系でのエリスロポエチンの産生制御機構と細胞機能における役割に関する解析を中心に研究を進めた。その結果、神経系細胞におけるエリスロポエチン遺伝子の発現制御メカニズムは、腎臓や肝臓における発現制御メカニズムと異なることを明らかにし、論文発表した(Hirano et al, Mol Cell Biol 2016)。また、エリスロポエチン産生が低下した遺伝子改変マウスの解析を行い、造血不全に加え、腎障害が重篤化するという表現型を見出した。この現象は、本マウスにエリスロポエチン製剤を投与することにより改善させることができた(Suzuki et al, Haematologica 2016)。さらに、エリスロポエチン産生低下による貧血状態は、全身性の低酸素状態を惹起し、心臓を拡張させることを明らかにした。本マウスの心拡張は貧血の改善により速やかに解消された。以上の結果から、エリスロポエチンが直接的または造血を介して生体の様々な組織の恒常性維持に関与することが明らかとなった。
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