本研究では、複数のイノシトールリン脂質(PIPs)代謝酵素をミエロイド系細胞特異的に欠損したマウス(cDKOマウス)を用いて、脂質代謝の異常と病態との関連を解明することを目的としている。 我々が作製したcDKO雌マウスは卵巣が顕著に肥大し、性索間質性腫瘍に似た病態を呈する。本年度はcDKO卵巣におけるPIPs動態解析と、卵巣肥大の分子メカニズム解明を行った。cDKOは組織特異的PIPs代謝酵素遺伝子欠損マウスなので、PIPs動態に異常をきたしている可能性が高い。そこで質量分析法にてPIPsを定量したところ、cDKO卵巣におけるPI,PIP1,PIP2量はコントロールと同程度であったが、PIP3量はコントロールの30倍以上であった。PIP3のターゲット分子は多数存在するものの、癌化に関与する分子としては原癌遺伝子産物であるAktが良く知られている。そこで抗リン酸化Akt抗体を用いた免疫組織染色によりAktの活性化を調べたところ、cDKO卵巣ではAktが活性化していることが確認された。実際にcDKOにおける卵巣肥大がAktの活性化により導かれているのかを明らかにするために、Akt1欠損cDKOマウス、もしくはAkt2欠損cDKOマウスを作製したところ、いずれのマウスにおいても卵巣肥大は抑制された。以上より、cDKO卵巣の肥大は、PIP3の蓄積とAktの活性化により生じることが明らかとなった。
|