研究課題
NF-κBは炎症や免疫を制御する転写因子で、我々は直鎖状ユビキチン鎖を特異的に生成するLUBACユビキチンリガーゼがNF-κB経路を活性化することを明らかにした。これは、直鎖状ユビキチン結合ドメインを含有するタンパク質は、LUBACによる炎症応答や免疫制御に重要な役割を果たすことを示唆する。そこで本研究で我々は、典型的な直鎖状ユビキチン結合ドメイン(UBANドメイン)をもち、緑内障や筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症に関わるoptineurin(OPTN)について解析した。まず我々は、野生型及び12種の疾患関連OPTN変異体を作製し、LUBACによるNF-κB活性化への影響を調べた。その結果、野生型および緑内障を引き起こすOPTN変異体はNF-κB活性化を抑制したが、ALS関連OPTN変異体はNF-κB活性阻害能を失っていた。さらに、共結晶構造を解析を行い、2分子のOPTN-UBANの両側に直鎖状ユビキチンが結合していることを明らかにした。また、CRISPR/Cas9法を用いてOPTNノックアウトHeLa細胞を作製し、NF-κB活性化を解析したところ、OPTN欠損によってNF-κB活性化が亢進した。同様に、アポトーシスもOPTN-KO細胞で亢進することが示された。さらに、OPTN変異によるALS患者由来の組織標本染色から、これら患者の運動ニューロンでは直鎖状ユビキチンや活性型NF-κB因子が細胞質にTDP-43と共局在する凝集体を形成していること、このような細胞ではカスパーゼ3が活性化していることを見いだした。本研究から、OPTNは正常細胞ではNF-κBと細胞死を抑制しているが、ALSを引き起こす変異体発現下ではNF-κB活性が亢進し、p65や直鎖状ユビキチンが細胞内で凝集するためアポトーシスを引き起こすこと、このため最終的にALSに至る可能性が示された。
1: 当初の計画以上に進展している
我々は、既に直鎖状ユビキチン結合タンパク質optineurin(OPTN)の直鎖状ユビキチン結合性がOPTNによるNF-κB活性抑制に必須であること、OPTNと直鎖状ユビキチンとの共結晶の構造生物学的解明、OPTN欠損細胞でのNF-κBとアポトーシス制御、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の病理組織における直鎖状ユビキチンや活性化型NF-κBの蓄積など重要な知見を見いだし、論文を投稿できる段階に達した。今後、詳細な病理解析を進めて疾患との関連を明確にする。
新規LUBAC会合タンパク質群の細胞・個体レベルでの機能解析1.各種細胞におけるLUBAC複合体の同定:LUBACによるNF-κB制御は細胞種差やヒトとマウスの動物種差があることが報告されているため、Cas9/CRISPR法でLUBACサブユニットをノックアウトした各種細胞にエピトープタグを連結したLUBACサブユニットを入れ戻し、生化学的な精製を行う。これによって、細胞種によってLUBAC機能の差違をもたらす実体を明らかにする。2.ノックアウトマウス作製による新規会合タンパク質の生理機能解析:LUBACに会合するタンパク質のうち、in vitroや細胞レベルの解析からNF-κB活性制御に関わることが判明した候補タンパク質について、ノックアウトマウスを作製し、表現型を解析するとともにNF-κBシグナル、自然・獲得免疫応答、アポトーシスなど関連する生理機能を解析する。3.新規抗炎症剤探索を目指したNF-κB活性阻害剤の探索:LUBACは、癌や皮膚炎など炎症性疾患に関連する。LUBACの活性制御には今回同定される会合タンパク質群が細胞・臓器特異的な調節に重要な役割を果たす可能性があり、創薬の標的として注目される。そこで、新規会合タンパク質の結合阻害剤や活性阻害剤を連携研究者とともに、無細胞タンパク質発現系でアルファスクリーン法を用いることで探索する。これらの解析からLUBACや直鎖状ユビキチンに結合し、炎症・免疫制御に関わるタンパク質の同定と生理機能解析を目指す。
すべて 2015 その他
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