研究課題/領域番号 |
15H04696
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
古川 鋼一 中部大学, 生命健康科学部, 教授 (80211530)
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研究分担者 |
山内 祥生 名古屋大学, 医学系研究科, 講師 (00444878)
大海 雄介 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (10584758)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スフィンゴ糖脂質 / シグナル / セラミド |
研究実績の概要 |
スフィンゴ糖脂質が、細胞の癌化あるいは神経系組織の形成・機能において、細胞膜ミクロドメインに局在してシグナル制御に働くことで、細胞の形質と運命を決定している。これらの糖脂質糖鎖の作用メカニズムの解明のために、スフィンゴ糖脂質の分子全体と膜近傍で相互作用する分子群を同定するとともに、脂質部位を含めた糖脂質プロフィールのリモデリング細胞を用いて、リガンド分子との結合性、細胞内局在、脂質raftの形成、シグナルの変化、細胞外からの膜への取り込みと再発現等につき解析を行った。 シグレック7の認識糖鎖を発現しないDLD-1細胞株にGD3合成酵素cDNAを導入して、GD3安定発現株を樹立したが、シグレック7の膜への結合は認められなかった。そこで、GD3の分子構造の解析を行い、GD3の大部分がphytoceramide 含有型であることが判明した。そこで、DES2遺伝子のサイレンシングを行って、phytoceramideをセラミドに転換したところ、シグレック7の結合性が認められるようになった。 スフィンゴ糖脂質が、細胞膜近傍において膜分子と相互作用することで、シグナルの制御に働くと考えられている。そこで、細胞膜の外層に発現する糖脂質の機能メカニズムを解明するために、enzyme-mediated activation of radical sources (EMARS)反応を行い、標識された膜分子をMSにより同定した。メラノーマ細胞では、GD3を標的にしたEMARS-MSによりNeogenin を同定して、そのGD3との会合や、シグナル制御のメカニズムを解析した。また、マウスグリオーマ細胞では、GD3を標的にして、PDGF受容体alphaを同定して、GD3との特異的会合を示すとともに、GD3、PDGFRalpha、Yesの3者複合体の形成が、グリオーマの浸潤性を増強することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、主に以下のような成果が得られつつあり、概ね順調に進展している。 スフィンゴ糖脂質の全体的構造が機能に及ぼす効果を明らかにすべく、脂質セラミドの修飾酵素の人為的操作を行い、DLD-1細胞で、DES2サイレンシング、さらにノックアウト細胞の樹立に成功した。また、脂肪酸のC2の水酸化にはたらくFA2H酵素の機能抑制も試みて、そのノックアウト細胞の樹立に成功した。現在、ダブルで両遺伝子を欠損する細胞株を作成して、細胞形質の比較検討を行おうとしている。 ガングリオシドの膜近傍における会合分子同定のために、メラノーマにおけるNeogenin、マウスグリオーマにおけるPDGFRalphaの同定に成功したが、小細胞性肺癌、ヒトグリオーマ等においては、十分に有望な分子の同定はまだである。これらの系においても、GD2を標的にした新規の膜分子を同定して、機能の解明を目指す必要がある。 0-シリーズガングリオシドは、マウスリンパ腫の肝転移や、ヒト乳癌の脳転移において重要な役割を担うとの報告がある。今回、2種の糖転移酵素遺伝子ノックアウトマウスを組み合わせて用い、0-シリーズガングリオシドに特異的なモノクローナル抗体の作成に成功した。これまで、抗体を用いてのヒト細胞株における0-シリーズ糖脂質の発現を網羅的に検討し、少数の細胞株で高発現が認められた。概して、0-シリーズガングリオシドの発現細胞は、細胞増殖、浸潤において、非発現細胞よりも低下傾向があることが分かった。現在、GD1alphaの抽出・精製を行い、細胞膜への取込みによる細胞機能の変化を観察中であり、それらの機能の全容が明らかになるのには、もう暫く時間が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
糖脂質の脂質セラミド修飾酵素遺伝子のノックアウト株の樹立と、それらの複合型ノックアウト細胞株を作成して、糖脂質認識抗体の反応性、シアル酸認識レクチンの反応性等に対する効果を明らかにする。同時に、ITIMを介して伝達される阻害シグナルへの影響に関しても明らかにする。 ヒトグリオーマ、ヒト(及びマウス)アストロサイト、ヒト小細胞肺癌細胞などを用いて、GD3/GD2を標的にしたEMARS-MS解析を行い、同定された分子の、糖脂質との複合体形成やシグナル制御における役割を明らかにする。 糖脂質の修飾細胞において示唆された諸々の生物学的機能に関して、発現細胞株から修飾済み糖脂質を抽出・精製したのち、親細胞に取り込ませることで、観察されたシグナルや表現型の再現を観察する。さらに、それらを化学合成された純品標本(岐阜大・安藤博士との共同研究)あるいは、それらの蛍光標識標品を用いて、機能再現実験及び細胞膜上の動態の検討を実施する。 LPS受容体であるTLR4-MD2と結合して、LPSの毒性を阻害する糖脂質Gb4の結合特異性について、脂肪酸部位の飽和/不飽和型の構造変化の影響を、in vivo 実験系で明らかにする。蛍光標識Gb4の使用も検討する。
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