研究課題
ERK経路は増殖因子によって活性化されるシグナル伝達システムであり、基質分子のリン酸化を介して、最終的に特定の遺伝子の発現量を調節する事で、細胞増殖の制御と発癌に中心的な役割を果たしている。実際に、ERK経路の上流に位置する受容体型チロシンキナーゼや、Ras、BRafなどの遺伝子は、様々な癌において高率に変異が見出される癌遺伝子であり、ERK経路を恒常的に活性化して発癌を導く。ERKはプロリン指向性キナーゼであり、基質分子内に存在するSP/TP配列を特異的にリン酸化することが知られている。これまでにERKの基質として転写因子やキナーゼを始めとする複数の分子が報告されている。しかしながら、未だ同定されていない未知の基質分子も数多く存在すると考えられており、その解明は癌の病因・病態の理解と新規治療法開発の観点からも重要である。本研究において我々は、ERKの基質分子を網羅的に同定する新たな実験手法を開発して、ヒトcDNAライブラリーのスクリーニングを行い、MCRIP1を始めとする複数の新規遺伝子を同定することに成功した。さらに、MCRIP1が、転写抑制共役因子CtBPと直接結合して、CtBPの転写抑制作用を解除する作用を持つこと、またその結果、CtBPの標的遺伝子であるE-カドヘリンの発現が保持されていることを見出した。一方、ERKによってMCRIP1がリン酸化されると、CtBPがMCRIP1から解離してプロモーター上に結合出来る様になり、周囲のヒストン修飾を変化させて、E-カドヘリンの発現抑制と上皮間葉転換を惹起することを明らかにした。また我々は、癌細胞におけるMCRIP1のリン酸化異常がEMTを促進して、癌の悪性化を招くことを示した。H28年度は、特にMCRIP1遺伝子改変マウスの作成を進め、その表現型の詳細な解析を実施した。
2: おおむね順調に進展している
これまでに機能未知の新規遺伝子MCRIP1がERKの基質であり、CtBPの機能制御を介して標的遺伝子の発現をエピジェネティックに抑制することを見出した。また、MCRIP1の生理機能を個体レベルでも明らかにすべく、遺伝子改変マウスの樹立を行い、多くの有望なデータが得られている。
遺伝子改変マウスの解析を推進し、MCRIP1の生理機能や、その制御異常がもたらす病理的意義について、個体レベルで詳細に解明する。またMCRIP1-CtBPシステムによって制御される標的遺伝子を明らかにする。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 4件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
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