研究課題
ヒト白血球型抗原(HLA)のDQB1*06:02陰性の真性過眠症(以後、真性過眠症)はその病態が不明であるため、感受性遺伝子を同定することを目的にゲノムワイド関連解析を実施した。統計解析の結果に影響を与えるデータを取り除くためにフィルタリングを行い、フィルタリング後に残った476,572 SNP(一塩基多型)に対して、関連解析(真性過眠症患者119例、健常者コントロール1,582例)を実施した。Imputationも行ったが、この時点ではゲノムワイド有意(P < 5.E-08)なSNPはなかった。そこで、まず疾患と関連する可能性のある候補SNPを13個抽出した。次に、ゲノムワイド関連解析で用いたサンプルとは独立のサンプルセット(真性過眠症患者283例、健常者コントロール433例)を用いて、これら13個の候補SNPが、真に真性過眠症と関連するか再現性研究を実施した。その結果、CRAT(carnitine acetyltransferase)遺伝子近傍のSNPが劣性モデルにおいて真性過眠症とゲノムワイド有意に関連することがわかった(P = 7.5.E-09、オッズ比 = 2.63)。このSNPはCRAT遺伝子の発現量に影響を与えるか検討した結果、Gアリル(真性過眠症のリスクアリル)を保有する群ではCRAT遺伝子の発現量が高いことがわかった。このSNPがナルコレプシーとも関連するか関連解析(ナルコレプシー患者640例、健常者コントロール1,912例)を行った結果、劣性モデルでは有意ではなかったが(P = 0.077、オッズ比 = 1.36)、アリルモデルで有意な関連を認めた(P = 0.022、オッズ比 = 1.18)。
2: おおむね順調に進展している
真性過眠症を対象としたゲノムワイド関連解析、Imputation及び再現性研究を実施することにより、ゲノムワイド有意なSNPを同定することに成功した。さらに、このSNPはその近傍のCRAT遺伝子に機能的な影響を与えていることもわかったため、おおむね順調に研究は進展しているものと考えられる。真性過眠症は有病率の高い疾患ではないため、DNAサンプルの収集が容易ではないが、現在日本全国の約20医療機関との共同研究により、DNAサンプルを集中的に収集する体制を継続的に維持している。この共同研究体制があったことにより、約400例もの真性過眠症患者のDNAサンプルを収集可能となった。そして、このことが上記のゲノムワイド有意な結果を得るのに重要な要因であったと考えており、今後の研究の発展のためにもこの体制は継続していく予定である。我々の研究グループでは、ナルコレプシーの感受性遺伝子としてCPT1B(carnitinepalmitoyltransferase 1B)遺伝子を同定し、その後の機能解析等の結果から、過眠症の原因の一つとして、脂肪酸代謝やエネルギー代謝の異常が関わる仮説を以前より考え、研究を進めている。今回、真性過眠症の感受性遺伝子としてCPT1B遺伝子と同じパスウェイ上にあるCRAT遺伝子を同定できたことは、さらにこの仮説を支持するものとなる。CRATの機能から考え、今後の解析としてメタボローム解析等を実施し、過眠症状を引き起こす原因物質の同定を目指す。
CRATはエネルギー代謝異常に重要な役割を果たす酵素であり、アシルカルニチンの生成に関わる。真性過眠症の関連SNPは、CRAT遺伝子の発現量と相関することはわかったが、実際の酵素の機能に影響を与えるか検討する必要がある。まず、健常者のメタボローム解析の結果を用い、SNPと相関するアシルカルニチンが存在するか調べる。現在、metabolomics gwas serverという公共のデータベースにおいて、メタボローム解析とゲノムワイドなSNPデータを統合したデータが公表されている。このデータを活用することで、費用対効果が高く、効率的な解析が可能となると考えている。この解析で、候補となるアシルカルニチンが同定された際は、LC-MS/MSを用いて、真性過眠症患者及び健常者の候補アシルカルニチンを測定する。この測定においても有意な差が認められた場合、このアシルカルニチンは真性過眠症の原因物質である可能性があり、真性過眠症の治療のターゲットになると考えられる。
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