研究課題
単核性貪食細胞系統(mononuclear phagocyte system: MPS)は樹状細胞、単球、マクロファージから構成され、生体防御、組織修復、発生、代謝など生体の恒常性維持に重要な役割を果たしており、その特徴を生かした治療や創薬の標的といった臨床応用面で期待されている。本研究ではiPS細胞とリプログラム技術を用いて優れた増殖能を備えたiPS細胞由来のMPSサブセットを樹立することを目的としている。樹状細胞や単球へのダイレクトリプログラムを評価するために、樹状細胞や単球分化に必須な転写因子E2-2-Kusabiraorange(KuOr)及びIrf8-Venusのレポーターマウスを作製した。このマウスを用いて共通樹状細胞前駆細胞を解析したところ、E2-2を高度に発現する新規E2-2-KuOr+細胞を同定した。興味深いことに、この前駆細胞は移植したマウス内リンパ組織において形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell: pDC)のみに分化した。この結果から新規のpDC前駆細胞であると示唆された。しかし、非リンパ組織、小腸ではpDCのみならず従来型DC(conventional DC: cDC)へと分化した。このpDCからcDCへの分化転換はβc-サイトカイン(IL-3、IL-5、GM-CSF)シグナル依存的であった。実際に、βc-サイトカイン受容体欠損マウスから新規E2-2-KuOr+細胞を純化して移植し、小腸における分化能を検討したところ、pDCからcDCへの分化転換が抑制されていた。また、小腸において分化転換したcDCはレチノイン酸を産生し、制御性T細胞T細胞分化誘導能力を備えていた。これらの結果は、E2-2-KuOr+前駆細胞由来のcDCが腸管免疫システムの恒常性維持に寄与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
分化リプログラムを評価するための単核性貪食細胞分化系譜決定転写因子のE2-2とIrf8の遺伝子領域の下流にレポーター傾向遺伝子(Kusabiraorange(KuOr)とVenus)を組み込んだレポーターマウス(E2-2-KuOrとIrf8-Venus)を作成した。これら2つのマウス系統において、各レポーター遺伝子が内因性E2-2とIrf8発現と相関していることを確認した。また、このE2-2-KuOrレポーターマウスを用いて骨髄から共通樹状細胞前駆細胞におけるE2-2-KuOrレポーター遺伝子の発現を検討し、分化能を検討したところ、新規pDC前駆細胞を同定した。また、同前駆細胞由来のpDCからcDCへの分化転換を見出し、そのメカニズムと生物学的意義を明らかにした。さらに、樹状細胞分化を制御するサイトカインFlt3リガンドの産生細胞を明らかにするために、同遺伝子発現制御領域の下流にレポーターmCherryを組み込んだマウス作製に成功している。
今後は、樹立したレポーターマウスから線維芽細胞を調整し、単核貪食細胞分化系譜決定転写因子群(Runx1、PU.1、Gfi1、Maf-B1、C/EBPa、Flt3、PU.1、STAT3、Irf8あるいはBatf3))を過剰発現させ、分化リプログラムを誘導し、 in vitro においてFlt3リガンド、GM-CSFやM-CSFを加えて樹状細胞や単球/マクロファージへと分化するかどうか、E2-2-KuOrやIrf8-Venusの発現を指標に評価する。また、同様な実験を理研から入手したiPS細胞を用いて行い、単核貪食細胞や同細胞群の前駆細胞樹立を目指す。
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Immunity
巻: 未定 ページ: 未定
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