研究課題
がん細胞では、正常由来細胞の特徴を失い、しばしば前駆細胞の性質を示すことが観察される。しかしながら、この「脱分化」が発がんの「原因」の一つなのか、単に「結果」なのかについては、明らかにされていない。本研究では、細胞初期化技術を用いて、生体内において積極的に脱分化を誘導することで、発がんにおける脱分化の意義について明らかとすることを目的とする。平成27年度は、生体内で細胞初期化因子を組織特異的に誘導可能なマウスモデルの作製を行った。腎臓及び膵臓特異的に、かつ薬剤依存的に細胞初期化因子の誘導が可能なシステムが完成した。同時にブラストシストからのES細胞の樹立技術や、CRISPR/Cas9など最新のゲノム編集技術を駆使して、変異型K-ras遺伝子や変異型p53遺伝子、さらにそれらに加えて細胞初期化因子を組織特異的に誘導可能な多能性幹細胞の樹立を行った。樹立した多能性幹細胞を用いてキメラマウスを作製し、発がんモデルを得た。今後、これらの発がんモデルを用いて病理組織学的解析を行い、発がんにおける脱分化の意義を検討する。
2: おおむね順調に進展している
生体内体細胞初期化システムを用いて、細胞脱分化と発がんの関連を明らかにすることを目的とした。申請者は、生体内での細胞脱分化が小児芽腫に類似した発がんを誘導することを明らかにしている(Cell 2014)。しかしながら、このシステムでは、初期化因子が全身に誘導されるため、長期の初期化因子誘導が難しく、解析が特定の細胞種に限られるという点、さらには他臓器における病変形成による二次的変化の除外が困難などの問題点があった。本研究では、まず臓器特異的に細胞初期化因子を薬剤依存的に誘導可能なシステムの構築を目指す。平成27年度は、腎臓及び膵臓特異的に細胞初期化因子の誘導が可能なシステムの作製を行った。腎臓及び膵臓特異的遺伝子のプロモーターを利用することで、薬剤依存的に細胞初期化因子を生体内の特定臓器(腎臓及び膵臓)で誘導できるマウスを作製することに成功した。研究課題は概ね順調に進展していると考えられる。今後、これらのマウスを単独で、もしくは他の発がんモデルと組み合わせ、病理組織学的に検索することで、発がんにおける脱分化の意義を検討する。
平成27年度の研究により、薬剤依存的に細胞初期化因子を生体内の特定臓器で誘導できるマウスを作製することに成功した。これらのマウスを用いて、特定の臓器で細胞初期化因子を誘導した後に病理組織学的解析を行う。また、細胞初期化因子の発現を一定期間で停止させ、部分的な細胞脱分化が与える影響を検討する。さらに生体内細胞初期化モデルを、他の発がんモデルと組み合わせることで、腫瘍細胞に脱分化を誘導し、発がんのプログレッション過程における細胞脱分化の影響を明らかにする。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件)
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