研究課題
がん細胞では、正常由来細胞の特徴を失い、しばしば前駆細胞の性質を示すことが観察される。しかしながら、この「脱分化」が発がんの「原因」の一つなのか、単に「結果」なのかについては、明らかにされていない。我々は、生体内細胞初期化システムを用いて、生体内での細胞脱分化が小児芽腫に類似した発がんを誘導することを明らかにしている(Cell 2014)。しかし、小児がん以外にも細胞脱分化が発がん促進作用を持つのかは未だ不明である。本研究では、細胞初期化技術を用いて、生体内において積極的に脱分化を誘導することで、発がんにおける脱分化の意義について明らかとすることを目的とする。前年度までに、生体内で臓器特異的に細胞初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、cMyc)を薬剤誘導可能なマウスの作製を行った。平成28年度は、生体内で細胞初期化因子を腎臓及び膵臓特異的に誘導可能なマウスモデルを用いて、それぞれの臓器における生体内細胞初期化過程を病理組織学的に解析した。また、変異型K-ras遺伝子や変異型p53遺伝子を有し、さらに細胞初期化因子を組織特異的に誘導可能な多能性幹細胞を用いてキメラマウスを作製した。この発がんモデルを用いて、発がんにおける脱分化の影響を病理組織学的解析により検討した。今後は、これらのマウスをさらに詳細に解析する。具体的には、網羅的遺伝子発現解析、エピジェネティック修飾解析を組織学的解析と組み合わせて、発がんにおける脱分化の意義解明を目指す。
2: おおむね順調に進展している
生体内体細胞初期化システムを用いて、細胞脱分化と発がんの関連を明らかにすることを目的とした。申請者は、生体内での細胞脱分化が小児芽腫に類似した発がんを誘導することを明らかにしている(Cell 2014)。しかしながら、このシステムでは、初期化因子が全身に誘導されるため、長期の初期化因子誘導が難しく、解析が特定の細胞種に限られるという問題点があった。本研究では、まず臓器特異的に細胞初期化因子を誘導可能なシステムの構築を目指した。平成28年度は、昨年度までに作製した腎臓及び膵臓特異的に細胞初期化因子の誘導が可能なシステムを用いて、それぞれの臓器における生体内細胞初期化過程を病理組織学的に解析した。さらに、変異型K-ras遺伝子や変異型p53遺伝子を有し、さらに細胞初期化因子を組織特異的に誘導可能な多能性幹細胞を用いてキメラマウスを作製し、発がんにおける脱分化の影響を病理組織学的解析により検討した。研究課題は概ね順調に進展していると考えられる。今後、これらのマウスを詳細に解析することで、発がんにおける脱分化の意義解明を目指す。
平成28年度の研究により、変異型K-ras遺伝子や変異型p53遺伝子を有し、かつ薬剤依存的に細胞初期化因子を生体内の特定臓器で誘導できるマウスを作製した。これらのマウスを用いて、部分的な細胞脱分化が発がん過程に与える影響の検討を開始した。今後は、これらのマウスをさらに詳細に解析する。具体的には、網羅的遺伝子発現解析、エピジェネティック修飾解析を組織学的解析と組み合わせて、発がんにおける脱分化の意義解明を目指す。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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