生体内体細胞初期化システムを用いて、細胞脱分化と発がんの関連を明らかにすることを目的とした。申請者は、生体内での細胞脱分化が小児芽腫に類似した発がんを誘導することを明らかにしている(Cell 2014)。しかしながら、このシステムでは、初期化因子が全身に誘導されるため、長期の初期化因子誘導が難しく、解析が特定の細胞種に限られるという問題点があった。本研究では、まず臓器特異的に細胞初期化因子を誘導可能なシステムの構築を目指した。腎臓及び膵臓特異的に細胞初期化因子の誘導が可能なシステムを用いて、それぞれの臓器における生体内細胞初期化過程を病理組織学的に解析した。さらに、変異型K-ras遺伝子や変異型p53遺伝子を有し、さらに細胞初期化因子を膵臓特異的に誘導可能な多能性幹細胞を用いてキメラマウスを作製し、膵発がんにおける脱分化の影響を病理組織学的解析により検討した。まず、膵腺房細胞においてK-ras遺伝子および変異型p53遺伝子発現のみでは、ERKの活性化や異常増殖の誘導には不十分であることを示した。次に変異型K-ras遺伝子や変異型p53遺伝子を有し、かつ薬剤依存的に細胞初期化因子を生体内の膵臓で誘導できるマウスを作製した。興味深いことに、K-ras遺伝子および変異型p53遺伝子発現に加えて細胞初期化因子を短期間誘導することで、持続するERKの活性化、膵腺房細胞の異常増殖が誘導できることが明らかにした。さらにその過程には腺房細胞に特徴的なエンハンサーの抑制が重要な役割を果たしていることを示した。細胞脱分化に関わるエピゲノム制御が膵臓の多段階発がんの中心的な役割を果たしていることが明らかとなった。
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