哺乳動物の消化器内では、多種多様な細菌の中から宿主に不利益な悪玉菌は排除され、利益となる善玉菌が残され宿主との共生関係が保持される。こうした宿主による細菌の取捨選択過程に腸管より分泌されるIgA抗体が重要で、その選択の鍵となる細菌の分子としてSerine hydroxymethlytransferase(SHMT)を私たちは同定した。以下の3課題を実施して、腸内細菌の選択機構を明らかにした。①SHMTが腸内細菌制御の鍵となる細菌の共通抗原であることの確認:異なる飼育環境下のマウス、異なるストレインのマウス、無菌マウスの腸管からIgAハイブリドーマを作成し、いずれのマウスからもSHMTを認識するIgA産生ハイブリドーマを得た。ヒト大腸から得られたIgAハイブリドーマにもSHMTを認識するIgAハイブリドーマを少数であるが得ることができた。以上から腸管IgA抗体が認識する細菌由来の抗原分子としてSHMTが重要であると推察された。②W27抗体投与前後の腸内細菌叢のメタゲノム解析:16S rRNA解析と同様にメタゲノム解析においてもW27抗体投与前後で有意な腸内細菌叢の変化を見出した。③SHMTを介したIgAによる腸内細菌制御機序の解明:IgA抗体が大腸菌のSHMT分子のエピトープを認識し結合することで大腸菌の増殖を抑制することを示した。IgA抗体は、腸管内で宿主に好ましくない細菌群を識別してその増殖を抑制し、宿主を利する細菌群の増殖を妨げないことで、細菌叢全体の多様性とバランスを維持していると考えられた。
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