研究課題
ヒトに感染するノロウイルス(HuNoV)は、冬型の急性胃腸炎、食中毒の原因ウイルスとして知られている。HuNoVは、感受性を示す培養細胞が無いため、基礎的研究に困難を極めている。申請者が科学研究費(基盤C)を受けて成功させた世界初のHuNoVとネズミノロウイルス(MNV)のリバースジェネティックスシステム(RGS)は、細胞内でのノロウイルス(NoV)の複製、感染性粒子作出を実現するとともに、GFPやルシフェラーゼ遺伝子でのウイルスゲノムラベルにより、NoV複製阻害剤の探索や、感受性細胞の探索を可能とした(PNAS 2014 Sep 23;111(38):E4043-52, Epub 2014 Sept 5.)。本研究では、このRGSを基盤技術として用い、HuNoV感染感受性細胞株の樹立、NoVレセプター分子の同定を目指す。さらに、小動物感染モデルの確立も目指す。今年度は、CRISPR/Cas9遺伝子ランダムノックアウトシステムによりMNV感受生細胞であるRAW264.7細胞のレセプター遺伝子をノックアウトすることで、MNV非感受性RAW細胞を作出し、その細胞で共通してノックアウトされている遺伝子を同定した。その遺伝子は、ヒト、サル、ネコ、ネズミの宿主の細胞をMNV感受生細胞に変化させるMNVのタンパク質性のレセプター分子である事が明らかになった。HuNoVのレセプターを検索するため、HuNoV感受生細胞の樹立を目指し、ヒト小腸バイオプシよりオルガンカルチャーを実施した。オルガンカルチャーの技術並びにヒト小腸細胞は、慶応大学医学部佐藤俊朗准教授より提供を受けた。
2: おおむね順調に進展している
MNVのRGSは、非感受生細胞であっても、また、ネズミ以外の動物種の細胞であっても、MNVゲノムを細胞内に送り込めば感染性粒子を算出可能であることを明らかにした。つまり、MNV感受生細胞と非感受生細胞の差は、MNVの細胞内部への侵入に関わるレセプター分子の有無である可能性を示唆する。そこで、MNVレセプター分子の検索をRGSで作出した遺伝的に均一なMNVと感受生細胞RAW264.7(RAW)細胞を用いて行った。CRISPR/Cas9でRAW細胞の遺伝子をランダムにノックアウトし、MNVを感染させた。MNVが感染したRAW細胞は死滅するが、レセプター分子がノックアウトされたRAW細胞は、生き残る。この原理を利用して、生き残った細胞に導入されたガイドRNA分子の配列を決定することで、レセプター分子をコードする遺伝子を同定した。同定したレセプター遺伝子を非感受性細胞に導入し、発現させると、非感受生細胞はMNV感受生細胞へと変化した。さらにMNVレセプター分子導入細胞の株化を行った。我々は、MNVレセプター分子を同定した。現在、同定されたレセプター分子のヒトホモログがHuNoVのレセプターとして機能するか否か研究を継続している。また、我々の同定したMNVレセプター分子に関して、特許申請を行った。現在、論文投稿が進行中である。
我々の同定したMNVレセプターは、CDファミリーのタンパク質分子であった。MNVのレセプター候補として報告されているシアル酸や糖脂質は、MNVの細胞への接着に関与するかもしれないが、感染に必須な分子ではなかった。MMVレセプターは動物種によってアミノ酸配列が異なる。この分子の種による多様性を利用し、MNVが宿主を決定している可能性が高いと思われた。現在、ヒトホモログがHuNoVのレセプターとしての機能を有するかどうかを調べている。次年度以降は、HuNoVのレセプター分子探索についても同様の手法によって同定可能かもしれない。そこで、平成27年度導入に成功したヒト腸管バイオプシのオルガンカルチャーにより作出する試験管内ヒト腸管(エンテロイド)を用いて、HuNoVの感染実験を行う。感染実験が成功すれば、HuNoV感染細胞をシングルセルソーティングし、非感染細胞とトランスクリプトーム解析で比較検討することにより、HuNoVレセプター候補分子のスクリーニングが可能となる。また、MNVと同様にCRISPR/Cas9システムによるHuNoVレセプター同定を試みる予定である。
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