研究課題
次世代の抗ウイルス薬は宿主には影響せず、ウイルスに特化した効果が求められる。このうち、第3世代の抗体医薬として特殊環状ペプチドが注目されている。H5N1インフルエンザウイルスHA蛋白質に対して結合する特殊環状ペプチドを創成し、治療に用いられているリレンザと同等以上の阻害活性を見出した。さらに、リレンザ耐性のH1N1パンデミック2009に対しても強力な阻害活性を示すことを見いだした。マウスを用いた治療実験において、リレンザと異なり感染後期においても劇症肺炎抑制による治療効果があることが示された。感染後期においても治療効果を示す低分子の環状ペプチドによる劇症肺炎抑制治療効果は感染細胞内ウイルス抗原分解によるものであり、宿主細胞を殺傷せずに免疫活性化に伴いウイルス蛋白質を選択的に認識し排除する事を見いだした。これらウイルス蛋白質の選択的な認識・排除機構を解明し、さらなる治療薬の最適化や治療法の確立につなげることを目的とする。
2: おおむね順調に進展している
インフルエンザウイルスHA蛋白質は細胞表面の受容体分子との結合やその後のウイルス膜と細胞膜との融合を担う分子であることから、環状ペプチド及び抗体が中和活性(宿主細胞内への侵入阻害)を示すこと、またHAはウイルス生活環の最終段階で細胞膜上に現れ、粒子の放出にも関わることから、NA阻害剤と同様の粒子放出を阻害している可能性も考えられる。一方、in vitroで感染3時間後(細胞内侵入後)に増殖阻害活性を示す特殊環状ペプチドを細胞に処理すると感染8時間後(一次感染のみで二次感染は起こっていない時点)にはHAタンパク質(開裂後のウイルス粒子由来HAタンパク質および開裂前のde novo合成HAタンパク質)が減少することを見出した。これらのウイルス増殖・発症阻害活性には新規の細胞内排除機序の関与が推察される。また、C型肝炎発症トランスジェニックマウスに治療ワクチンを接種したところ、これまでの定説と異なり、宿主細胞を殺傷せずに免疫活性化に伴いウイルス蛋白質を選択的に認識し排除する事を見いだした。
これら宿主細胞を殺傷せずにウイルス蛋白質を選択的に認識し排除する免疫機構を解明し、さらなる治療薬の最適化や治療法の確立につなげることを目的とする。特殊環状ペプチドはノイラミニダーゼ阻害薬を超えた治療効果が期待でき、ウイルス感染後期においても有効な増殖発症阻害活性の作用機序を明らかにし、さらなる治療薬の最適化や治療法の確立につなげる。このために次の研究を進める。(1)HA結合性特殊環状ペプチドの細胞質内移行・ウイルス複製阻害機序の解析、(2)HA結合性特殊環状ペプチドのHA蛋白質分解機序の解析、(3)HA結合性特殊環状ペプチドによる自然免疫活性化機序の解析を進める。
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