研究課題
レトロウイルスに対する増殖抑制因子APOBEC3 ファミリーは、ヒトではAとB、C、D、F、G、Hの7種があり、それぞれが異なった抗ウイルス作用スペクトルを示すことが知られている。しかし、これらの特異性を規定する要因およびその分子機序は未だ明らかになっていない。そこで、本研究課題ではウイルス学的なアプローチだけでなく、生化学的および構造生物学的に横断的な解析手法により、APOBEC3 ファミリーによる抗レトロウイルス分子機序の全容を明らかにする目的で研究を進めている。まず、X線結晶構造解析法により未決定のAPOBEC3タンパク質の分子構造を決定した。次に、決定した構造情報と生化学的データを基に機能領域を決定した。さらに、機能領域について変異型タンパク質を作製し、試験管内反応系(逆転写反応再構築系など)を活用して機能領域への影響を比較解析した。当該年度はAPOBEC3HおよびAPOBEC3Fタンパク質の分子構造決定に着手し、分子構造上へ機能領域をマッピングする解析を行った。その結果、1)X線結晶構造解析法によりAPOBEC3FのC末側ドメイン(CTD)の分子構造を決定した。2)HIV-1 Vif 結合領域および基質結合領域を同定した(Journal of Virology 90:1034-, 2016)。さらに、3)他のメンバーと相同性が低い APOBEC3H タンパク質の立体構造決定に向けて単量体APOBEC3Hタンパク質の精製方法を確立した。APOBEC3H タンパク質は多量体あるいは凝集体を形成しやすいため、国内外において多くの研究グループが精製に成功していない。また、4)網羅的な点変異解析法により、Vif結合に重要なAPOBEC3H上の機能領域は他のファミリーとは異なり、alpha3-4の疎水性残基で構成されることを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
まず、APOBEC3F CTDタンパク質のX線結晶構造の決定(PDB ID3WUSとして登録)し、Vif 結合に重要な機能領域の同定に関する学術論文として輩出できた。APOBEC3Hタンパク質に関しては、動的多量体ではなく単量体として精製する手法を見出したことは、今後、タンパク質の結晶化に進む大きな進展であると確信している。さらに、Vif結合に重要な機能領域を同定し、他のファミリーとは異なる領域であるということを見出した(論文作成中)。これは、ファミリー間の異なる抗ウイルス作用トロピズムを理解する上で貴重な情報につながると考えられる。本研究に関する成果発表について、平成28年度(5月)に米国で開催される Cold Spring Harbor Laboratory -Annual Retrovirus- Meeting において口頭発表に採択され、レトロウイルス分野において注目される研究成果であると評価される。さらに、一連の研究成果について、第63回日本ウイルス学会、第56回日本熱帯医学会、第29回エイズ学会などにおいても招待講演を行い情報発信を行うとともに、討論する機会をもてた。これらことからも、当各年度の本研究課題は、総じて研究計画以上に進展していると考えられる。
二年目として、生化学的および構造解析に基づきAPOBEC3 による抗ウイルス作用機序の解明研究をさらに加速させる。特に、精製方法を確立することができたAPOBEC3Hタンパク質に力を注ぎ、世界に先駆けて、APOBEC3Hの分子構造決定およびその研究成果を輩出したい。さらに、当初の計画通り、APOBEC3G(完全長)タンパク質の動的多量体形成能を制御する手法を探索し、分子構造決定に向けて足がかりを構築する。一方、試験管内複製再構築系(逆転写再構築系など)や精製ウイルス粒子を活用して、構造情報あるいは生化学的な機能領域解析データがウイルス複製(HIV-1とLINE Retrotranspositionを中心に)における表現系に関与するか検証する。最終的に、APOBEC3 ファミリータンパク質による抗ウイルス作用野分子機序の全容解明を目指したい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件)
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