研究課題
ショ糖密度勾配遠心法によりIFNγ刺激・未刺激状態の細胞の細胞膜画分と寄生胞膜画分を分離し、質量分析法によりタンパク質の存在・量を網羅的に比較し、細胞膜に有り(多く)寄生胞膜に無い(少ない)タンパク質を同定した。その結果、IFNγ刺激時の寄生胞膜画分でのみIFNγ誘導性GTPaseが検出されたことから、実験系がワークしていることが示唆された。特に着目した点は、細胞内膜小胞の融合に関与する分子群であった。IFNγ誘導性GTPaseのうちp65 GBPはC末端に生体膜に結合するのに重要である疎水性プレニル基(ゲラニルゲラニル基)の付加部位を有する。そこで以前に作製したp65 GBPノックアウト細胞にゲラニルゲラニル基付加ができないp65 GBPを戻してもIFNγ依存的「殺」原虫反応が戻らないことから、このゲラニルゲラニル基付加はsmall GTPaseであるRabタンパク質にも見られる特徴である。Rabの細胞内膜小胞輸送での役割の類似性から、p65 GBPはRabと同様に細胞質に存在する膜小胞上に存在し標的である寄生胞膜に融合する(または小胞から寄生胞膜状に転移する)ことが考えられたことから、生化学的手法により得られた候補分子について、CRISPR/Cas9ゲノム編集法により胎児由来のノックアウトMEFを作製し、IFNγ依存的「殺」原虫反応を検討した。その結果、Rabタンパク質の負の制御因子であるRabGDIαがGBP2依存的な免疫応答を負に制御していることを見出した。RabGDIα欠損細胞においてはIFNγ依存的な「殺」原虫反応が亢進していた。その原因としては、GBP2とIrga6の原虫への動員率が増加していることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
PNASに論文として報告できたため
次年度は、得られた候補分子について、MEFだけでなく生体レベルでトキソプラズマ原虫が主として感染する細胞であるマクロファージなどでも当てはまるかどうかを検討するためにCRISPR/Cas9ゲノム編集法でノックアウトマウス個体を作製する。胎生致死でなければ、約40匹のB6純系ノックアウトマウスが2ヶ月以内で用意可能であるので、一部はマクロファージやその他の免疫担当細胞を採取し、in vitroでIFNγ依存的「殺」原虫反応を検討し、残りはin vivoでトキソプラズマ原虫の感染実験を行い、生存率の測定と原虫由来のルシフェラーゼ発光を利用した生体イメージング装置(IVIS)による原虫の体内での感染拡大の比較を時空間的に行う。さらに各臓器での原虫数の測定と血清中の炎症性サイトカインの測定を行うことでマウスの死因についても、原虫数の増加が原因か、過剰な炎症性サイトカイン産生が原因かを検討する。このように、1つの遺伝子について個体レベルの解析まで含めて3ヶ月で検討可能である。IFNγ依存的「殺」原虫反応とオートファジーの違いの分子メカニズムの解明についても引き続き検討・探索を続け、IFNγ依存的「殺」原虫反応に関与する新規の宿主候補分子を同定し、CRISPR/Cas9ゲノム編集法によるin vitro (MEF)レベル又はin vivo(マクロファージやマウス個体)レベルでの解析を進める。胎生致死の場合はloxPオリゴの挿入によってコンディショナルノックアウトマウスを作製しLysM-Creマウスと掛け合わせノックアウトマクロファージを作製する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Cell
巻: 167 ページ: 382-396