本研究の目的は、動機づけの観点から医師の向社会性(=患者のために働くことで自分も満足する性質)を多面的なアプローチで明らかにし、また向社会的な医師を育成するためのモデル教育プログラムを開発することであった。当初の研究目的は、まずは向社会的な医師の働き方をインタビューによってナラティブ(物語)の形で質的に明らかにし、さらにそれを題材にした映像教材を作成すること。次に医師の向社会性に関する現状調査を質問紙法によって量的に明らかにすること。さらに医師の向社会性に関わる脳活動について脳科学の観点から明らかにすること。最後にこれらの研究結果を用いて、向社会的な医師を育成することのできるモデル教育プログラムを開発することであった。 医師のプロフェッショナリズム、特にその中でも本研究では、向社会性という心理学の概念に着目して研究を進めた。ナラティブインクワイアリーという研究手法に則り、患者のために向社会的に働く医師の語りをデータとして収集し、それぞれの事例の形でまとめた。それをもとにしたマスターナラティブを作成し、YouTubeにもアップロードしたため、一般にも公開されている。医師の向社会性に関する国内外の状況についてのアンケート調査は、現在なお進行形である。医師の向社会性に関わる脳活動についての研究は、30名近くの研修医のデータを収集し、解析も済ませて、論文を作成中という状況である。これらを基盤にした向社会的な医師を育成するためのモデル教育プログラムについては、パイロット教育を実施したにとどまっている。
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