研究実績の概要 |
本研究では、(1)理論疫学手法を用いて、がん検診の有効性を判断するための枠組みをもった数理モデルを構築し、(2)住民の意識調査から得られたがん検診の不利益に関するデータを用いて、がん検診の利益と不利益の観点から効果を評価し、わが国のがん罹患率の状況をきちんと反映した形での根拠のあるがん検診システムの確立を目指した。
(1)がん検診の有効性評価のための数理モデルの構築:検診の有効性を考える際、リードタイムバイアス等のバイアスを考慮する必要がある。本研究では、これらのバイアスに注意して、がん検診の有効性を判断するためのモデルを作成した。乳がんを例にとり分析した結果、利益としての平均寿命の延びと、不利益としての偽陽性者数のどちらをどの程度重視するかによって、がん検診の有効性が異なっていた。 (2)がん検診の不利益に関する意識調査:検診の不利益に関する心理的影響を定量的に分析し、利益と不利益を考慮したがん検診評価のあり方を検討するため、全国に居住する満20~69歳の女性を対象にインターネットによる質問紙調査を実施した。主な質問項目は、年齢・職業等の個人属性、がん検診の受診状況、検診の不利益に関する認識等であった。社会調査会社に登録するモニター3,249人(46.4±13.3歳)より調査への協力が得られた。検診の利益・不利益に関する項目について集計を行った。その結果、1,526人(47.0%)が検診による早期発見・早期治療で3年以上の寿命延長効果を期待していた。一方、検診の不利益を知っている人は、191人(5.9%)であった。また、検診後の精密検査による精神的不安ついて、2,600人(80.1%)が1年未満の寿命延長なら受け入れられないと回答していた。がん検診を受診している人の期待している寿命の延びは、実際の寿命の延びよりもかなり高い可能性があり、リスクコミュニケーション上の課題があることがわかった。
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