研究課題/領域番号 |
15H04755
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中西 猛夫 金沢大学, 薬学系, 准教授 (30541742)
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研究分担者 |
小森 久和 金沢大学, 薬学系, 助教 (00634180)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 輸送体 / プロスタグランジン / 炎症 / 肺 / 酵素 |
研究実績の概要 |
野生型(WT)およびプロスタグランジン輸送体OATP2A1(PGT)をコードするSlco2a1遺伝子KOマウス(Slco2a1-/-)から肺組織、肺胞上皮細胞、および気管肺胞洗浄液を調製し、PGE2細胞内動態調節因子について検討した結果、Cox-2やPGE2代謝の律速酵素15-Pgdhの発現に変化は見られなかった。また、気道や肺胞上皮細胞に強く発現するOatp2a1は、気道・肺胞腔からのPGE2取込みに支配的な寄与を示すことが明らかになった。Slco2a1-/-の肺胞洗浄液中のPGE2量はWTに比べ有意に高値を示したことから、OATP2A1による肺PGE2動態の破綻が線維化重症化と関連することが示された(PLOS ONE, 10:e0123895, 2015)。さらに、線維化悪化原因の特定のため、炎症期においてOATP2A1が肺組織に与える影響、およびPGE2の肺組織内動態と組織線維化との関係を解明している。これまでに、BLMを投与後5日目に線維化の前段階である炎症状態を比較した結果、Slco2a1-/-において、肺気道・肺胞腔中への細胞浸潤、肺病理所見ならびに炎症性マーカーの発現のいずれの点からも炎症の増悪が認められた(日本薬学会第136年会、横浜、2016.3.27)。しかし、炎症増悪の原因は特定されておらず、分子機序解明を進める。一方、肺PGE2動態については、予備試験段階であるものの、肺胞上皮細胞を用いたPGE2の透過試験により、PGE2は代謝を受けず、気道・肺胞腔から組織側への移行することが確認された。本結果は、PGE2の組織内動態調節因子としてOATP2A1の役割を示すものであり、本PGE2動態の変化と組織炎症・線維化との関連について、検討中である。また、OATP2A1機能阻害物質についても、一部FDA承認薬物ライブリーのスクリーニングにより候補化合物を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、肺組織におけるPGE2細胞内動態調節因子の発現について情報が得られた。さらに、炎症期にOATP2A1が肺組織に及ぼす影響ならびに肺PGE2動態と組織の炎症・線維化との関係についても予定通り研究を開始した。OATP2A1の肺組織に及ぼす影響については、Slco2a1-/-でNF-kbの核内移行増大が示されるなど、OATP2A1機能欠損において炎症増悪が認められたことから、今後の分子機序解明に進展が期待できる。一方、肺PGE2動態についてはマウス肺からの上皮細胞の単離が困難であることが判明した。十分な細胞数を確保できず、実験に要求されるクォリティを保つ単層膜が得られなかったことから、同じくげっ歯類であるラットを用いて研究を実施する。本計画書に記載した微小透析法の確立に関して、すでに連携研究者から技術導入を済ませており、今年度から肺PGE2動態に取り組む。
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今後の研究の推進方策 |
● 肺線維症モデルマウスにおけるPGE2の肺組織内動態解析‐PGE2の組織内動態を解明するために微小透析法を用いた局所PGE2動態を検討する。 ● 肺上皮/線維芽細胞に対するOATP2A1の作用の検証 計画当初は、OATP2A1によるPGE2の膜透過が直接に線維化に影響を与えることを想定していたが、本年度の検討により炎症期に対しOATP2A1が役割を果すことが示されたため、線維化期に限定せず、炎症期についても、その作用を検討する。マウス由来上皮細胞の取得が困難であることから、阻害剤を併用することでOATP2A1の役割を推定する。本考察を補填するため、炎症期ならびに線維化期にSlco2a1-/-から単離された肺組織や浸潤した血球細胞なども実験試料として追加する。具体的には、(1)ラット由来肺上皮細胞のPGE2膜透過機構を評価する。線維芽細胞との共培養を実施し、OATP2A1を介して膜を透過し組織へ移行したPGE2が肺組織へ及ぼす影響について、アポトーシス感受性、上皮細胞の増殖調節、上皮間葉転換の変化など検討する。(2)培養系にPGE2受容体アンタゴニストを用い、受容体と輸送体との役割分担についても考察する。 ● OATP2A1の発現調節機構の解明(1)プロモーターの単離を行いリポーターアッセイによりOATP2A1の転写調節機構を指定する。(2)発現あるいは機能の調節に関わる物質の探索 機能阻害剤についてはFDA承認ライブラリーを用いて検討を開始した段階である。OATP2A1の発現調節に関するスクリーニングは調節機構解明研究の進展を見ながらすすめる。
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