研究課題
近年、局所感染に起因する様々な全身疾患の発症が注目されているが、その詳細は依然として不明な点が多い。我々はこれまでに口腔粘膜や鼻粘膜局所に存在・感染している細菌が引き起こす重度全身疾患発症に関する研究を進めており、脳出血を誘発する特殊な細菌が存在することを報告した。実際にこの菌の保菌者は脳出血のリスクが約4倍に高まることが確認されたほか、その後の研究により潰瘍性大腸炎の悪化にも関与することが明らかになった。そこで本研究では、高病原性局所感染性細菌の検出、重度全身疾患発症メカニズムの解明、さらにはそのメカニズムを基にした重度全身疾患発症の予防・治療法の開発を主な目的とする。本年度は健診時における対象者の唾液サンプル約800例を用いて、特定の疾患誘発性口腔細菌の検出を行った。その結果、循環器疾患や糖尿病、脂質異常症を持つ人では特定の口腔細菌の検出率が非常に高いことが明らかになった。特に糖尿病と循環器疾患を持つ対象者でこの傾向が強いことが明らかになった。しかしながら階層別解析などより詳細な統計解析を行うためには更なる症例数の加算が必要となるため、現在、症例数をさらに増やし(3000例程度)検討を行う予定である。一方、脳卒中や難治性の炎症性腸疾患発症との関連が深いとされるコラーゲン結合タンパクを持つ細菌については、高感度で効率よく検出できる系を確立し、検出を行っている。あわせて病態発症に重要な役割を果たしているコラーゲン結合タンパクをブロックできるペプチドの候補をいくつか見出しており、今後それらの効果を検討していく。本年度の研究成果の一部は、2016年3月の日本薬理学会総会シンポジウムにおいて発表された。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は当初予定していたサンプル採取・解析対象者数(200~300症例)よりも大幅に解析サンプル数が増加した(約800症例)。これは特定の疾患関連性口腔細菌の高感度・迅速検出のシステムが確立できたこと、健診対象者のサンプルを集めることができたことなどが関連していると思われる。この結果、当初は3年かけて約1000症例を解析する予定であったが、3年で3000症例を集めるように目標を高く設定することができると考えられる。また、疾患発症のターゲットの一つであるコラーゲン結合タンパクに関しては、ブロッキングペプチドの候補を早期に絞ることができたことより、次年度以降の培養細胞を用いた解析、動物モデルを用いた解析などが順調に進捗するものと考えられる。さらに現在解析中であるが、これまでほとんど報告されていなかった新たな局所感染性細菌による全身疾患発症との関連性を示すデータも一部得られている。この方面でも新たな成果の拡大が期待できると考えられる。以上のことから、本年度の進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と判断した。
今後の研究の推進方針としては、本年度得られた成果について、研究分担者と研究打ち合わせを密に行うことにより結果の妥当性・考察・評価などを行う。そののち、研究計画に基づいて各方面での研究を推進させていく。症例数の加算については、次年度も約800~1000症例程度を集めて更なる解析を行う予定である。この結果、本年度と合わせて1500~2000程度の症例が集まる予定であり、階層別解析などより詳細な解析を行うことができると考えられる。一方、ブロッキングペプチドの結果を基に培養細胞での研究、疾患動物モデルを用いた解析などを積極的に進めていく予定である。これらの結果を基に柔軟に対応することも必要になると考えられる。また、新たな標的としての全身疾患誘発性口腔細菌については、疾患の症例数が少ないために症例数の大幅な上乗せが必要になると考えられる。この症例数の上乗せは健診対象者で集めるのは若干困難であることから、各対象診療科とのコラボレーションも必要になる可能性があると考えられる。いずれにせよ検討する疾患の範囲が広がることなどから、スピーディな研究遂行が必要とされるものと思われる。
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