研究課題/領域番号 |
15H04757
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
和田 孝一郎 島根大学, 医学部, 教授 (90263467)
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研究分担者 |
中島 淳 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (30326037)
今城 健人 横浜市立大学, 附属病院, 助教 (30600192)
田中 徹也 島根大学, 医学部, 助教 (10346380)
立花 雅史 大阪大学, 薬学研究科, 助教 (80513449)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 局所感染 / 全身疾患 / 脳卒中 / NASH / 循環器疾患 / 糖尿病 / 口腔細菌 |
研究実績の概要 |
近年、局所感染に起因する様々な全身疾患の発症が注目されているが、その詳細は依然として不明な点が多い。我々はこれまでに口腔粘膜や鼻粘膜局所に存在・感染している細菌が引き起こす重度全身疾患発症に関する研究を進めており、脳出血や潰瘍性大腸炎の悪化に関与する特殊な口腔細菌が存在することを明らかにしている。そこで本研究では、高病原性局所感染性細菌の検出、重度全身疾患発症メカニズムの解明、さらにはそのメカニズムを基にした重度全身疾患発症の予防・治療法の開発を主な目的とする。 昨年度は健診時における対象者の唾液サンプル約800例を用いて、特定の疾患誘発性口腔細菌の検出を行った。その結果、循環器疾患や糖尿病、脂質異常症を持つ人では特定の口腔細菌の検出率が異状に高いことがみとめられ、糖尿病と循環器疾患でこの傾向が強いことが明らかになった。今年度は更にサンプル数を増やし、他の地域での健診時に約800サンプルの症例を収集した。これに加えて県歯科医師会の協力を得て、県下の歯科医院受診者を対象としたサンプル収集を並行して行い、約600例のサンプルを集めて解析を行った。この結果、特定の口腔細菌の保菌率には地域差が認められ、ある種の全身疾患との間に相関性がある可能性も考えられた。現在までのところ、約2200症例を集めているが、来年度中に症例数をさらに増やし、3000例程度のデータ集積と解析を行う予定である。また、脳卒中や難治性の炎症性腸疾患発症との関連が深いとされるコラーゲン結合タンパクを持つ細菌の高感度検出系をほぼ確立し、解析を行っている。あわせて動物実験の結果から、病態発症に重要な役割を果たしているコラーゲン結合タンパクをブロックできるペプチドの候補をいくつか見出しており、更なる検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初予定していたサンプル採取・解析対象者数(800症例)よりも大幅に解析サンプル数が増加した(800+600=1400症例)。これは特定の疾患関連性口腔細菌の高感度・迅速検出のシステムが確立できたこと、健診対象者のサンプルだけでなく、県歯科医師会の協力を得て歯科受診者からサンプルを集めることができたことなどが関連していると思われる。この結果、当初は3年かけて約1000症例を解析する予定であったが、2年ですでに2200症例あつまっており、3年間で3000症例を集める目標をクリアできることはほぼ可能であると考えている。。 また、疾患発症のターゲットの一つであるコラーゲン結合タンパクに関しては、コンセンサス配列の判明により、ブロッキングペプチドの候補を早期に絞ることができたことより、次年度以降の培養細胞を用いた解析、動物モデルを用いた解析などが順調に進捗するものと考えられる。 さらに現在解析中であるが、これまでほとんど報告されていなかった新たな局所感染性細菌による全身疾患発症との関連性を示すデータも一部得られている。この方面でも新たな成果の拡大が期待できると考えられる。 これに加えて、口腔内細菌による口腔環境と、腸内細菌による腸内環境とが互いに影響しあう可能性、いわゆる「口腔―腸相関」が存在する可能性についても見出しており、更なる全身疾患発症メカニズムに迫れる可能性もでている。 以上のことから、本年度の進捗状況は「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針としては、本年度得られた成果について、研究分担者と研究打ち合わせを密に行うことにより結果の妥当性・考察・評価などを行う。そののち、研究計画に基づいて各方面での研究を推進させていく。 症例数の加算については、前述のごとく本年度と合わせて最終的に3000程度の症例が集まる予定であり、階層別解析などより詳細な解析を行うことができると考えられる。 一方、ブロッキングペプチドの結果を基に培養細胞での研究、疾患動物モデルを用いた解析などを積極的に進めていく予定である。これらの結果を基に柔軟に対応することも必要になると考えられる。 また、新たな標的として口腔内細菌による口腔環境と、腸内細菌による腸内環境とが互いに影響しあう可能性、いわゆる「口腔―腸相関」が存在する可能性についても見出しており、更なる全身疾患発症メカニズムの研究に発展する可能性が大きいと考えている。 本研究で得られた知見は、すでにいくつかの学会、シンポジウム、講演会などで発表しているが、今後は国際学会発表、および国際学術雑誌への投稿などを積極的に進めていく予定である。また前述のごとく、本研究から明らかになった口腔―腸相関と全身疾患発症との関連性について、今後、新たな研究分野として発展していく可能性も含めて研究を拡大していく予定である。
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