研究課題
慢性腎臓病は、高齢化及び生活習慣病の普遍化に伴い罹患率が急増しているが、根本的な治療法 が確立していないアンメットメディカルニーズの一つである。この課題の克服には、腎臓自身が 有する内在的な修復/再生能力を誘導する因子を効率良く持続的に供給するための腎ターゲティン グシステムの確立が必要不可欠である。本研究は、in vivo ファージディスプレイ法により独自に 見出した腎特異的認識ペプチドを血中滞溜性に富むアルブミンに付加した組換え型融合体により、腎送達効率と血中保持能の向上を両立させた革新的ナノキャリアを構築するとともに、これにハイブリッド型の腎修復/再生因子を結合させたセルフリーな体内誘導型腎臓修復/再生治療剤を創製し、慢性腎疾患治療に応用することを企図した独創的かつ画期的な試みである。これが実現できれば、多様な腎疾患に対する初の抜本的な治療薬となるため、末期腎不全からの透析導入を減少させる結果、ヘルスケアの向上はもとより、医療経済的な貢献も大いに期待できる。なお本研究では、腎修復/再生因子として、骨形成因子の一つであるBMP7と肝細胞増増殖因子(HGF)誘導能を有するONO-1301を用いる。本年度の到達目標は、1) 組換え型腎認識ペプチド-HSA-BMP7 融合体の設計と作製、2)1)で作製した 融合体の構造・機能特性の評価、3)1)で作製した融合体とONO-1301 結合体(腎認識ペプチド-HSA-BMP7・ONO-1301 複合体)の調製と安定性評価であるが、いずれの項目も順調に進捗している。
2: おおむね順調に進展している
本研究の最終的な到達目標は、腎移行性と血中滞溜性の時間的な制御を可能とする次世代型腎デ リバリーシステムを確立し、損傷・線維化腎の修復/再生治療に応用することであり、今回はその 基盤情報の構築を目的としている。本年度の到達目標は、1) 組換え型腎認識ペプチド-HSA-BMP7 融合体の設計と作製、2)1)で作製した 融合体の構造・機能特性の評価、3)1)で作製した融合体とONO-1301 結合体(腎認識ペプチド-HSA-BMP7・ONO-1301 複合体)の調製と安定性評価である。1)に関しては、腎認識ペプチド-HSA-BMP7 融合体のpDNA作製、続いて酵母発現系における融合体の産生と各種クロマトグラフィーによる精製法を確立することができた。2)に関しては、融合体の立体構造を、各種スペクトル法(蛍光、円二色性、吸収、赤外)及び免疫学的手法で解析したが、融合化に伴う顕著な構造変化は認められなかった。次に、HSA との融合化が BMP7 の活性に及ぼす影響を、線維芽細胞を用いた in vitro 実験系により検討したところ、融合化によりBMP7の生物活性の低下が認められた。ただし、この低下の程度は、既存のアルブミン融合体で認められた変化の範囲であった。3)に関しては、融合体とONO-1301を混合するだけで、簡便に調整することができることを確認した。また、このハイブリット体において、融合体及びONO-1301が安定かつ活性を発揮できることをin vitro実験計画で明らかにすることができた。以上の結果から、本年度計画は順調に進捗していると判断した。
本年度は、1) マウス(C57BL/6 マウス(♂, 8w)とラット(SD ラット)を用いて、2種類の慢性腎臓病モデル動物(5/6 腎摘、片側尿管結さつ処理(UUO))を作製する。2) 次いで、平成 27 年度に作製した 2種類の腎認識ペプチド-HSA-BMP7・ONO-1301 複合体の体内動態特性(腎移行性、血中滞溜性) を健常及び病態モデル動物を用いて解析する。その際、コントロールとして、融合タンパク質の構成因子である HSA、 BMP7 を用い、これらの体内動態との類似点及び相違点を評価する。次いで、これら複合体の薬理効果を、上述した 2 種類の腎不全病態動物で検討する。その際、予防効果及び後投与における治療効果を検証すべく、前者は病態作製時に、後者は線維化や障害が出現した後に投与を開始する。また、これらの複合体における構成成分(BMP7、HGF、HSA)の寄与を確認すべく、構成成分の単独及び組み合わせ投与、並びにこれらの因子に対する中和抗体の併用投与が腎保護/修復効果に及ぼす影響を評価する。なお、薬理効果については平成29年度においても継続して実施する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
PLoS One
巻: 11 ページ: 15-21
10.1371/journal.pone.0149526
Biol Pharm Bull
巻: 38 ページ: 1606-16
J Control Release
巻: 217 ページ: 1-9
J Pharm Sci
巻: 104 ページ: 3968-76
Sci Rep
巻: 5 ページ: 38-45
10.1038/srep12778
巻: 5 ページ: 48-52
10.1038/srep14471
巻: 104 ページ: 3084-9
J Pharm Pharmacol
巻: 67 ページ: 255-263
J Pharm Exp Ther
巻: 352 ページ: 244-57
Cancer Sci
巻: 106 ページ: 194-200