転写因子GATA1は、複数の標的遺伝子の発現を包括的に制御し、赤血球や巨核球、好酸球、肥満細胞それぞれの分化に重要な役割を担っている。ダウン症患児に好発する一過性骨髄増殖性疾患(TMD)や、その自然寛解後に発症する急性巨核芽球性白血病(AMKL)には、GATA1のN側転写活性化領域欠失変異(GATA1s)が関与していることが分かっている。また、GATA1sの発現量に依存した巨核球分化異常の有無が、TMDから白血病発症の基盤にあることも分かっている。GATA1s変異を有し、周産期にTMD病態を呈する2つのマウス系統(GATA1s-H;GATA1sが高発現で、TMDは離乳までに自然寛解し、白血病を発症しない。GATA1s-M;GATA1s発現量が中等度で、TMDは離乳までに自然寛解するが、成獣時に白血病を発症する。)を用いて、TMD芽球における遺伝子発現の変化を検討し、TMD芽球で発現が変化している遺伝子のプロモーター近傍ではGATA1とE2Fが共局在していること、また、GATA1がRasal1のプロモーター領域に存在するGATA結合配列に結合して、Rasal1の発現を制御していること、その制御の破綻が白血病発症に関与している可能性を見いだしてきた。H30年度は、巨核球系細胞株やダウン症白血病から樹立した細胞株を用いて、巨核球分化の過程でRasシグナルが活性化すること、その活性化にはGATA1の発現が関与していることを見いだした。また、完全長GATA1の機能欠失によるRasシグナルの制御不全は、大量のGATA1sを発現することで部分的に代償できることを見いだした。
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