研究課題
検体検査の多くは客観的な指標としてデジタルで表されるため、測定法によって測定値が異なると診療上大きな誤判断を起こす危険性がある。従って、どこでもいつでも同じ検査結果を得ることができるシステム構築が必要である。しかしながら、標準測定法がなく各社が個別の測定体系で試薬を市販している免疫学的検査項目は、検査値がまちまちで標準化は至難の業である。そこで、検査データの標準化とハーモナイゼーション(これらをまとめて標準化と呼ぶこともある)を進めるために最適の手法を考案・構築し、モデル例として先鞭をつけることを目的とする。今年度は、本邦では広く臨床検査に活用されている項目であるが、まだ十分な検討がなされていない可溶性IL-2受容体(IL-2R)、PIVKA-Ⅱ、KL-6などを対象とした。IL-2Rは、現在4つの試薬で測定可能である。化学発光酵素免疫測定法が2法、酵素免疫測定法が1法、ラテックス凝集免疫測定法が1法である。いずれの方法も基準値とされる130-580 U/mLの範囲から多くの患者が示す50000 U/mLくらいまでは希釈も入れて可能であった。これらの患者試料での相関性を確認したところ、10000 U/mL以下の159例でいずれも相関係数が0.97以上と高かった。All Procedure Trimmed Mean(APTM) で得られる回帰式に近づける方法によって、各法による結果はAPTMに近づくが、それが本当に各患者において妥当な選択かどうかには疑問が残った。患者試料の多様性を測定法が異なった場合にいかに扱うか、今後の課題である。免疫測定法は、測定に用いる抗体だけでなく、他種の測定法からなっており、測定条件が千差万別であるため、測定試薬が数多く出回ってしまうとハーモナイゼーションが難しくなる。そこで、まだそれほど多くない項目を選択して実態を評価した。
3: やや遅れている
市場調査の結果、検討対象項目の順番を変更したこともあり、若干開始が遅れたため、達成できた項目が少なくなってしまった。しかしながら、患者検体を収集しIL-2Rについて検討した結果、それについては4社の試薬の検討が終了し、比較的大きなばらつきがないものの生データを見る限り、データが数倍異なる試料も散見された。次にPIVKA-Ⅱの検討にかかっている。
PIVKA-Ⅱ、KL-6、トロポニンT、トロポニンI、NT-proBNP、IgE、フェリチン、プロラクチン、ACTHの依頼があった患者血清を収集する。この単一のヒト血清を集めたパネルは、マトリクス効果が相殺されることなくきれいに捉えることができるが、1人分の血清の量は少ないため、多くの方法で測定するのが困難である。そこで、複数人の血清を混合したプール血清を適宜組合せて使用する。多項目で使用可能な少数プール血清を作製し、適宜一緒に用いる。この項目毎もしくは多項目に対応できるプール血清のパネル化も重要な課題と認識し、その活用について検討する。この際、献血者血清を混合したプール血清と適宜混合して値あわせの希釈に使用する。複数種の測定系による測定値の分布図を、ヒト血清パネル、プール血清と市販の精度管理試料、日本医師会の精度管理試料との関係(相互互換性;コミュータビリティ)を含めて調べる。すなわち、横軸に複数測定法の平均値(代表値)を、縦軸に実測値と平均値の差をプロットする。各社の測定試薬でヒト血清パネルを測定した値の平均(All Procedure Trimmed Mean; APTM)を代表値とし、それとのバイアスがなくなるように補正したときの各試薬の個々の検体の測定値が収束すれば、ヒト血清パネルの使用によりデータの標準化・ハーモナイゼーションができると判断する。国際臨床化学連合(IFCC)が中心となって甲状腺ホルモン検査(TSH、FreeT4)で行われている方法であり実績はあるが、現在検討中のIL-2Rで浮上した疑問点、APTMで本当にハーモナイゼーションになるのかについても後1年の研究期間に考えてみたい。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 7件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 3件)
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