研究課題/領域番号 |
15H04764
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
内海 健 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80253798)
|
研究分担者 |
松島 雄一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20571342)
瀬戸山 大樹 九州大学, 大学病院, 助教 (30550850)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / 抗老化 |
研究実績の概要 |
長寿、アンチメタボリックは人類の夢の一つであり、そのメカニズムは諸説言われているが、具体的な機構は明らかでない。さらに、指標となる物質の同定やメカニズムに基づく創薬研究は進んでいない。我々は軽度ミトコンドリアストレスによる細胞、生体の適応応答(Adaptive response)が分泌蛋白の誘導を介してミトコンドリアの機能修復のみならず全身の病態改善に繋がる」との仮説を提唱し検証している。さらに、軽度ミトコンドリアストレス指標となる, 代謝物, 分泌蛋白の探索を我々が所持するモデルマウス、細胞で探索することを目的とし、ヒト疾患でのマーカーとしての有用性を検証している。 細胞レベルの研究では、ミトコンドリア翻訳阻害剤 (抗生剤)がミトコンドリアストレスを誘発、分泌蛋白を介して長寿、アンチメタボリックに繋がるかを検証している。 我々はミトコンドリアDNAの維持分子TFAMのトランスジェニックマウス(TFAM Tgと略します)においては当初の予測とは異なりミトコンドリアDNAの転写、翻訳の軽度低下がみとめられ、結果として軽度酸化的リン酸化能の低下が認められた。ミトコンドリア病マウスのような高度障害ではなく、所謂 軽度ミトコンドリアストレスマウスモデルである。 本研究では 1.ミトコンドリアストレスの指標、検査指標となるペプチド, 代謝物の探索 2.応答機構メカニズムの解明。3. 全身状態を改善する分泌蛋白の探索を行う。さらに軽度ミトコンドリアストレスが抗老化、抗メタボリックに関与することから、軽度ミトコンドリアストレスを惹起する創薬の開発を進めていく。軽度ミトコンドリアストレスは逆に適応応答を惹起し分泌蛋白を介して全身状態を改善させることが期待され、長寿、抗メタボリズムに繋がるとの新しい概念を証明することを研究の主目的とする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ミトコンドリアストレスの指標、検査指標となるpeptide, 代謝物の探索 ミトコンドリア翻訳阻害によるストレスでは異常タンパクが蓄積することでそのシグナルが伝達されると考えられている。つまり蓄積するペプチドの同定、さらにミトコンドリア特異的なformyl methionineを含むペプチド(fMet-peptide)の増加が推定され現在この系に関与する分子の同定及びノックダウンした細胞の樹立に成功している。 ②ミトコンドリアストレス応答遺伝子(分泌蛋白の網羅的探索と検査指標としてのFGF21, GDF15)の解明。我々が所持するTFAM Tgマウスp32心筋特異的KOマウスは筋肉、心筋に軽度ミトコンドリアストレスを生じさせ、適応応答により分泌されるFGF21、GDF15などの分泌タンパク発現が全身状態の改善などの一助を担うことを見出した。 ③ミトコンドリア翻訳阻害がストレス応答の原因になりうるかを創薬としての抗生剤の有用性を探る。我々の提唱するミトコンドリアストレスから核シグナルが伝わりFGF21などの遺伝子発現がミトコンドリアストレスから長寿、健康増進に結びつくという仮説の一部を証明しつつある。 ④ミトコンドリアから核へのシグナル分子、機構の全解明を目指し、ミトコンドリア内蛋白合成障害による ペプチドの蓄積がシグナルの一つとして考えられている。核へのシグナルとしては ERストレスシグナル、mtUPRシグナルを明らかにした。ペプチドをミトコンドリア外に排出するペプチドトランスポーターであるABCB10、および転写因子 CHOPに着目し、核へのシグナル伝達機構を明らかにしつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
①我々が所持するマウスモデル血清中、組織中におけるこれらペプチド、および 代謝物の探索、定量を比較検討する。 培養細胞を用いた系でもミトコンドリア翻訳阻害剤投与により細胞内、分泌中のペプチド、代謝物の同定、定量を行う。具体的にはモデルマウス組織中、血中、細胞分泌液からペプチドを含む低分子を回収する。この分画をOrbitrapフーリエ変換型MS質量分析器 (Q-Exactive Thermo Fisher)にかけ、検出されるペプチドを網羅的に解析する。候補ペプチドを合成し検量線を引くことでペプチドの定量が可能になる。代謝物は3台のLCMS,GCMSにより同定する ②ミトコンドリアストレス応答遺伝子。具体的な分泌タンパクプロファイリングに関しては筋芽細胞C2C12細胞にミトコンドリア翻訳阻害剤のアクチノニン、クロラムフェニコールを処理し処理後24時間後の培養上清を単離する。培養上清からタンパクを濃縮、一次元電気泳動による目的の蛋白を単離、質量分析器により蛋白の同定を試みる。さらに、候補分泌蛋白として見出しているGDF15( Growth differentiated factor 15)の分泌量をマウスモデル、培養細胞で検証する。 ③候補薬の一つとしてすでに我々はミトコンドリアリボソームを阻害する抗生剤 クロラムフェニコール、アクチノニンがストレス応答遺伝子CHOPの発現、FGF21, GDF15の発現増加につながることを見出している。 そこで種々の抗生剤の中から 候補としての抗生剤を比較検討し、副作用が少なく、細菌よりミトコンドリアリボソームを阻害する抗生剤を選定する。
|