研究課題
神経障害痛はヘルペスウイルス感染、糖尿病による末梢神経障害、がん細胞の神経への浸潤などによって発症し、軽い触刺激でも激痛を引き起こす「アロディニア」を特徴とする。アロディニアは根治が難しい慢性の痛みであり、患者のQOLを著しく低下させるが、その疼痛強度には概日性の変動が認められる。本研究では申請者らが発見した副腎皮質ホルモン作動性の因子「Glucocorticoid- regulated factor (GCRF:仮称)」に焦点をあて、平成27年度は主にGCRFによる疼痛の概日リズム形成機構と疼痛強度増悪のメカニズムについて解析を行った。この結果を受けて、平成28年度はGCRFの機能阻害が、神経障害痛を伴う疾患モデル動物の疼痛強度を緩和し得るか否かについて検討を行った。GCRFの活性阻害薬を神経障害痛モデルマウスに投与したところ、有意な疼痛過敏抑制効果が認められた。また、この抑制効果は脊髄アストロサイトからのATP放出抑制を介していることが明らかになった。一方、がん性疼痛モデルマウスにおいても疼痛強度には有意な概日リズムが認められ、GCRFとは異なる新たな因子がリズムの形成に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度に計画していた研究内容をほぼ達成でき、一部の成果を学術誌に発表することができた。また、次年度移行の計画遂行に向けた新たな基盤データを得ることができた。副腎皮質ホルモン作動性の因子(GCRF)は、神経障害痛の治療標的分子に成り得る可能性を見出すこともできたが、その阻害薬はヒトへの適用が認められてない化合物だったため、平成29年度は既存薬の中からGCRFの機能を阻害できる医薬品を探索し、その適応拡大の可能性について検討を行う。
平成29年度は以下の計画を実施する。実験(1) GCRFの活性阻害作用を有する化合物または既承認薬の探索GCRFの活性を定量化できるセルフリー評価系を既に構築している。そこで、この評価系を用いて、GCRFの活性を阻害し得るシーズ化合物をライブラリーから探索する。また、探索対象を既存の医薬品にも拡張し、GCRFの活性を阻害し得る既承認薬の同定も試みる。実験(2)同定したシーズ化合物または既承認薬の鎮痛効果の検討実験1で同定した化合物または既承認薬を神経障害疼痛モデルマウスに投与し、触刺激によるアロディニアを抑制できるか否かについて検討を行う。実験は副腎皮質ホルモンの分泌が上昇し、神経障害疼痛が最も悪化する時間帯に行い効果を評価する。同時に単回投与後の効果の持続時間についても評価を行い、少ない投与回数でより長い効果が期待できる薬物の選別を行う。
すべて 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 13102
10.1038/ncomms13102
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/52
http://www.phar.kyushu-u.ac.jp/bbs/view2.php?S_Publ_Year=2016&word=&page=1&B_Code=347