研究課題/領域番号 |
15H04766
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
八坂 敏一 佐賀大学, 医学部, 助教 (20568365)
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研究分担者 |
村田 祐造 佐賀大学, 医学部, 准教授 (20128143)
原 博満 鹿児島大学, 医学部, 教授 (20392079)
吉田 裕樹 佐賀大学, 医学部, 教授 (40260715)
山崎 晶 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (40312946)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 疼痛学 / 神経免疫連関 / パターン認識受容体 / 神経障害性疼痛 |
研究実績の概要 |
難治性の慢性疼痛である神経障害性疼痛の発症メカニズムの解明と有効な治療薬の開発が待たれている。神経障害性疼痛動物モデルは、末梢神経を部分的に切断することで作製される。この切断がトリガーとなり様々な連鎖反応が起きて痛みが慢性化してしまうと考えられている。 近年末梢神経障害後の脊髄ミクログリア(MG)活性化が神経障害性痛発症メカニズムとして注目されている。しかし、どのようにしてMGが活性化されるのかについては、まだ不明な点も多い。我々はこのMGの活性化におけるITAM(Immunoreceptor tyrosine-based activation motif)受容体ファミリーの役割について研究を行っている。ITAM受容体はToll like receptorのようなパターン認識受容体で、自然免疫系の細胞に多く発現している。このような受容体には損傷自己を認識するものもあり、神経損傷により活性化する可能性があると考えられる。 本研究ではITAM受容体の内、C型レクチン受容体X(CLRX)を主なターゲットとして研究を行っている。CLRXのKOマウスでは神経損傷による神経障害性疼痛が起こらなかった。この分子のmRNA発現をリアルタイムPCR法で調べた結果、神経損傷後脊髄での増加は見られず、1次知覚神経の細胞体である後根神経節を含めた損傷部位においてmRNAの増加が見られた。さらに部位を限局するため、神経の切断部位と後根神経節とに分けてmRNA発現を調べたところ、神経切断部位でmRNAの著しい増加を認めた。この結果から神経切断部位に浸潤してくる細胞にCLRXが発現しており、CLRX依存的なシグナルが後根神経節細胞の活動や遺伝子発現を変化させ、脊髄に投射している終末から脊髄後角細胞(含グリア細胞)に影響を与えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダメージを受けた細胞から放出される因子がITAM受容体を刺激することを仮説として本研究をスタートさせた。末梢神経を損傷した場合、そのような分子が放出される可能性は切断部位、細胞体である後根神経節、脊髄に投射している終末部等が考えられる。本年度はCLRXの時間的空間的発現パターンの解析を行い、上述のように発現部位を特定することができた。切断部位であったことから浸潤細胞が主なソースであると示唆されるが、それを確かめるためにはさらなる実験が必要である。組織学的な検証を行うための実験を進めている。 また、CLRX KOマウスと野生型マウスについて神経損傷後の脊髄および切断部位からRNAを抽出しマイクロアレイ解析を行った。次年度では、これらの結果を基に発現に差のあったRNAに関してリアルタイムPCRによる検証を行う。また、このKOマウスのように神経障害性疼痛を起こさないが脊髄ミクログリアの増殖は見られる現象はこれまでにも報告されている。それらの報告で関与が指摘されている分子に関しても同様な検証を行う。 また、アダプター分子Yについても研究を行っているが、アメリカのグループが論文発表したため、アダプター分子Yについては、慎重に今後の研究を考える必要がある。 昨年度から本年度にかけて共同研究者の異動があったため、実験機器を含めた研究環境の変化がおこった。さらに次年度には研究代表者の異動が本年度後半に決まった。そのため、実験する項目、及び機器の購入に関して、効率よく研究を行えるようにいくつか変更を行った。CLRXに関してはその内因性のリガンドの検索も行う予定であったが、環境の変化により次年度からと変更した。購入機器は共同研究者異動に伴う実験機器の必要性の変化により当初の予定を変更して遠心機を購入した。また、代表者が異動した先でも本研究を続けることができるよう、異動先にはない解析ソフトを購入した。
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今後の研究の推進方策 |
CLRXに関しては内因性のリガンド検索を行う。術後の末梢神経切断部位を採取し、その組織中にCLRXのリガンドが存在するかどうかについてレポーター細胞を用いて検索する。また、CLRXのmRNA上昇が切断部位に顕著であることが分かったが、発現している細胞についてはまだ同定されていない。浸潤してくる細胞である可能性が高いことが示唆されている。細胞浸潤の程度や細胞集団の同定に関してはフローサイトメーターを用いて検証する。また、それらについては組織学的検討(免疫組織化学染色やin situハイブリダイゼーション法)も行う。さらに、主な浸潤細胞である好中球やマクロファージを選択的に取り除く処置や野生型マウスとKOマウス間で骨髄移植を行い、実際に骨髄系細胞が責任細胞であるのかを同定する。神経切断後の脊髄と切断部位を含めた後根神経節組織に関して、野生型マウスとCLRX KOマウスの遺伝子発現をマイクロアレイにより解析しており、差が見られた遺伝子に関してはリアルタイムPCRによる検証を行う。また、これまで神経障害性疼痛に関すると報告されている遺伝子についても切断部位、後根神経節、脊髄において検討する。 アダプター分子Yに関しては、上述のように他のグループにより論文が発表された。しかし、我々とは異なる側面もあるため、その点について引き続き検証したい。特に、このアダプターに結合する受容体が免疫細胞やミクログリア(MG)において抗炎症作用を持つことが報告されており、先の論文とは反対の機能と解釈される。この点についてはさらに検証が必要と思われる。また、我々はKOマウスにおいてMG特異的細胞内タンパク質の細胞外における抗体染色性が上昇していることを観察している。細胞外にこのタンパク質が増加しているのかについて検証し、細胞死との関連について検討する。
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