研究課題
放射性同位元素(RI)から放出される数百keV~1MeV程度のγ線を遠隔よりイメージングすることが可能な方法としてコンプトンカメラ法が知られている。本研究では、本申請者らが平成26年度に開発に成功した「結晶シンチレータによる福島フィールド用世界最高感度コンプトンカメラ(ガンマアイ)」で培った技術をもとに、医療現場で使用可能な全く新しい高感度γ線コンプトンカメラの開発研究を独自に遂行することを研究目的としている。まず、初年度である平成27年度においては、核医学施設内の放射能汚染や放射線治療施設内の放射化物質などの低線量γ線源を撮影可能な「高感度オールスカイγ線コンプトンカメラ」の開発を遂行した。具体的には、CsI(Tl)と光電子増倍管からなる11個のカウンターを立体的に配置することで、全方向から入射するγ線を「コンプトン散乱+光電吸収」いよる2カウンターコインシデンスによりデータ収集し、オンラインで全方向のγ線到来方向分布を可視化することが可能なシステムを構築した。北里大学医療衛生学部RI室において様々な密封線源による性能評価の結果、300keV~1.5MeVのエネルギーに渡って角度分解能σ~18度で全方向に渡ってγ線源の位置を極めて高い感度で同定可能な結果を得た(γ線源から1m離れた位置において約10cps/MBq(約100cps/μSv/h))。この製作されたプロトタイプ機を用いて、国立がん研究センター東病院核医学施設において測定を行った結果、PET検査で使用する放射性医薬品18F-FDGの自動合成器、自動投与器、及び投与された患者の動態の撮影に成功した。更に、放射線医学総合研究所重粒子線がん治療室において治療後の放射化物質の可視化にも成功した。現在、国際学術雑誌への投稿論文を準備中である。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度である平成27年度においては、当初の予定通り、医療現場において放射能汚染箇所を広い視野に渡って可視化可能な高感度オールスカイγ線コンプトンカメラの開発に成功することができ、多くの業績をあげることができた。ここで、当初は360度水平方向を見渡せる高感度パノラマタイプの開発を予定していたが、開発研究の中で、本手法は垂直方向にも十分な感度があることが判明し、結果として全方向が見渡せるオールスカイタイプの開発を実現することができた。また、臨床現場における予備的な実地試験の結果、本システムは病院内の放射線管理区域における次世代の環境モニターとなりうる有意な結果を得ることができたため、一連の成果をあげることができたと判断される。
初年度に開発した高感度オールスカイγ線コンプトンカメラによる応答試験の結果をフィードバックし、次に角度分解能をσ~5度に向上させたオールスカイタイプの製作を新たに遂行する。具体的には、結晶数、結晶間距離、結晶サイズを変更することにより高角度分解能を達成可能とする。ここで、カウンタ数を16ch以上に増設することを可能にするため、ADC-SiTCPボード(16ch)を2枚使った32ch読み出し回路を新たに開発する。方法としては、FPGA搭載の外部ボード(KEK開発、FPGAセミナーで使用)を導入することで2枚のADC-SiTCPボードのクロックの同期を可能とする。これにより、2枚のADC-SiTCPボードをひとつのデータ読み出しシステムとして扱うことを可能にする。H27年度と同様、製作されたプロトタイプ機を用いて、北里大学医療衛生学部RI室においてさまざまなRI線源を用いた応答試験を遂行する。その後、病院の核医学施設、及び放射線治療施設において実地試験を遂行し、我々が提案するオールスカイγ線コンプトンカメラの環境モニターとしての有用性について総合的評価を遂行する。更に、診断装置への応用を想定した狭視野・高角度分解能コンプトンカメラの検討として、新しいコンポーネント開発のためのR&D、及びプロトタイプ製作を順次遂行する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A
巻: 804 ページ: 25-32
10.1016/j.nima.2015.09.014
Japanese Journal of Medical Physics
巻: 35(Sup.1) ページ: 183-183
巻: 35(Sup.1) ページ: 110-110
巻: 35(Sup.3) ページ: 109-109
巻: 35(Sup.3) ページ: 76-76
http://www.kitasato-u.ac.jp/ahs/rt/muraishi/index.htm