研究課題/領域番号 |
15H04780
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
荒木 敦子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 准教授 (00619885)
|
研究分担者 |
小島 弘幸 北海道立衛生研究所, 食品科学部・薬品安全グループ, 主幹 (10414286)
乃村 俊史 北海道大学, 大学病院, 助教 (50399911)
宮下 ちひろ 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特任准教授 (70632389)
岸 玲子 北海道大学, 環境健康科学研究教育センター, 特別招へい教授 (80112449)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | アトピー性皮膚炎 / 環境 / 衛生 / 遺伝子 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
小児のアトピー性皮膚炎の有病率が世界的に増加している。アトピー性皮膚炎発症には、表皮の角質形成と保湿に重要なたんぱく質フィラグリン遺伝子FLGの変異が重要であることが明らかになってきた。一方、環境要因の一つとしてフタル酸エステル類はアレルゲンへのアジュバント効果が動物実験で指摘され、疫学研究でもハウスダスト中フタル酸エステル類濃度が高い家で、アトピー性皮膚炎有病のリスクが高いことを報告した。本研究は、FLG変異の有無と環境中アレルゲンおよびフタル酸エステル類曝露によるアトピー性皮膚炎への影響を解明する。出生コホート「北海道スタディ」に参加する7歳児を対象に、これまでに8641人にアレルギーの調査票を送付し、4901人から回収した(56.7%)。このうち、1630人の尿、1449人からハウスダストを収集した。1066人の児のFLG変異を解析し、変異率は9%だった。今後、尿中のフタル酸エステル類代謝物を曝露のバイオマーカーとして測定し、FLG変異の有無と代謝物濃度によるアトピー性皮膚炎有病との関連を解析する計画である。また、フタル酸エステル類の作用としてレポーター遺伝子アッセイ法を用いてDEHPとその代謝物のヒト核内受容体12種類に対する活性を調べた。DEHPはERα及びPXRアゴニスト活性とERβアンタゴニスト活性を示したが、その主要代謝物MEHPはPPARα/γ及びPXRアゴニスト活性を示した。4種類のMEHP代謝物においてもPPARαアゴニスト活性を認めたが、それらの活性はMEHPの活性よりも弱かった。以上の結果から、DEHP代謝物の核内受容体活性パターンはDEHPのパターンと異なり、MEHPの核内受容体活性はMEHP代謝物に比べ強いことが示唆された。このことから、DEHP代謝能の違いも間接的にアトピー性皮膚炎発症に影響すると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
尿中フタル酸エステル類代謝物の外注による分析を検討したが、経費面から必要な検体数の分析を研究代表者らが実施する方針に転換した。使用できる分析機器LCMSMSの手配に時間を要したため分析着手時期がやや遅れたが、平成28年度より尿中代謝物の分析に着手する。また、分析対象としたフタル酸エステル類DiNPの代謝物MHiNPおよびMCiOPは市販されていないため、ドイツの試薬会社に標準試薬およびラベル体の合成を委託外注したため3カ月程を要した。
|
今後の研究の推進方策 |
出生コホート「北海道スタディ」調査に参加している7歳児にアレルギーの調査を実施し、約4900から調査票を、尿1630検体を収集した。そこで、平成28年度は尿検体中に含まれるフタル酸エステル類代謝物の分析に着手する。分析対象化合物は、MiBP、MBzP、MEHP、MEHHP、MECPP、MiNP、MHiNP、MCiOPをLCMSMSで分析する。固相抽出を用いた前処理法を確立する。尿試料に13Cラベル体サロゲート混合液を添加し、βグルクロニダーゼ溶液を加えて37℃インキュベートにより脱抱合を行う。その後に固相カラムで抽出する。検量線の作成と定量下限値の確認、回収率と変動率の評価を実施する。分析カラムの確定、グラジェント条件、カラム温度等の分析条件を確立する。すでにハウスダスト中フタル酸エステル類が分析済みの検体を優先して尿中フタル酸エステル類代謝物の分析を開始する。曝露による影響のバイオマーカーとして、酸化ストレスマーカーである8OH-dGの児の尿中濃度を、市販の測定キットを用いて分析する。FLG変異の有無と、尿中フタル酸エステル類濃度および8OH-dGとの相関およびアトピー性皮膚炎の有無を解析する。 平成28年度の研究により、DEHP代謝物(5物質)の中でMEHPが核内受容体を介する主要な生理活性体であることが判明したことから、培養細胞やマウス脾細胞を用いてMEHPによる免疫系に及ぼす影響を調べる。MEHPによるTh1サイトカイン・TNFalpha,Th2サイトカイン・IL-4およびTh17サイトカイン・IL-17等の遺伝子発現や蛋白産生作用をRT-PCR法やELISA法を用いて明らかにする。また、マイクロアレイを用いたMEHPによる免疫細胞での網羅的遺伝子発現解析を行い、曝露マーカーの探索を試みる。
|