研究課題/領域番号 |
15H04791
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研究機関 | 公益財団法人放射線影響研究所 |
研究代表者 |
林 奉権 公益財団法人放射線影響研究所, 分子生物科学部, 副部長 (70333549)
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研究分担者 |
徳永 勝士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40163977)
安波 道郎 長崎大学, 熱帯医学研究所, 客員研究員 (80244127)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ゲノム / 放射線 / 炎症 / 遺伝子多型 / microRNA |
研究実績の概要 |
1. 研究対象者6,517名の生活習慣データ、臨床検査データと免疫・炎症関連生体指標測定結果を収集した。また、SNP解析のためのDNAサンプルの調製を行った。 2. 胃がん症例の特にびまん性胃がん95症例についてSNPアレイによる網羅的遺伝子多型の探索を行った。その結果、4番、8番、9番染色体上の複数のSNPで非被ばく者群に比較して高線量被ばく者群でリスクの増加が認められた。さらにこれらについては症例数を増やして調べる必要がある。 3. 結腸がん189症例(近位結腸がん94症例、遠位結腸がん95症例)についてSNPアレイによる網羅的遺伝子多型の探索を行った。その結果、近位結腸がんでは1番、4番、10番、17番染色体上の複数のSNPで、また遠位結腸がんでは1番、2番、18番染色体上の複数のSNPで、それぞれ非被ばく者群に比較して高線量被ばく者群でリスクの増加が認められた。 4. DNA修復関連遺伝子ATMの遺伝子多型の中で、特にATM遺伝子発現に関連すると考えられる5’非翻訳領域の一塩基多型に注目して、原爆被爆者を対象としたコーホート研究により放射線関連乳がん発生との関連を調べた。放射線影響研究所(放影研)免疫ゲノムコーホートの女性2,944名を1981-2005 年にわたり追跡し、100名の乳がん罹患者を見出した。放射線被ばく線量、遺伝子型及び放射線被ばく線量と遺伝子型の組み合わせに対する乳がん相対リスク(RR)を調べた結果、遺伝子型の影響を無視した場合、原爆放射線への被ばく線量に応じて乳がん相対リスクは有意に増加していた(RR = 1.51/Gy、95% CI: 1.25-1.83)。全体の放射線レベルにおいて、ATM遺伝子型ATM-A/AまたはATM-G/Aの対象者を基準とした場合、遺伝子型ATM-G/Gの対象者の乳がん相対リスクは有意に増加した(RR = 1.85、95%CI: 1.24-2.75)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原爆被爆者の過去成人健康調査を受けられたときに、遺伝子解析での試料の利用について書面での同意書が得られている原爆被爆者の過去成人健康調査で保存した試料から得られた免疫・炎症・DNA修復関連遺伝子多型SNPアレイによる測定は順調に行われた。また、免疫・炎症・DNA修復関連遺伝子多型、TaqMan法による遺伝子型の同定も順調に行われた。
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今後の研究の推進方策 |
SNP arrayを用いた網羅的解析によって見出された遺伝子多型について生物学的意義を加味しながら重点的に推進してゆく。具体的には見出された候補遺伝子に関連する免疫・炎症指標やDNA修復関連遺伝子と関係のある生物学的経路(biological pathway)について探索を行い、放射線関連がん発生に関係する経路を明らかにする。 これらのアプローチを総合して、疾患感受性、放射線感受性の個人差の背景となる遺伝的要因と放射線被曝の相互作用を解明することにより、放射線関連疾患の個別予防への基盤を構築する。 遺伝子多型と各免疫炎症関連生体指標データおよび生活習慣、環境要因、臨床データを総合して、本調査中に行った疾患の中で特定の炎症関連疾患の高危険群を明らかにするとともに、放射線被曝により炎症関連疾患のリスクが特に高くなる集団を特定する。研究対象者全員の遺伝子多型と炎症関連生体指標、ならびに放射線被曝や食生活等の生活環境に関する情報をデータベース化し、炎症関連生体指標のリアルタイムモニタリングによる放射線関連疾患の個別予防法の基盤を構築する。
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備考 |
分子生物科学部ホームページ http://www.rerf.or.jp/dept/radi/index.html
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