研究課題
1) 広島・長崎の乳がん96症例と東大で収集された対照者群419名について、免疫、炎症、DNA修復関連遺伝子多型が同定できるSNPアレイを用いて比較した結果、1番染色体のDRAXIN遺伝子のSNPが、対照群と比較して乳がん症例の有意なオッズ比(OR=5.33, -Log10P=7.07)を示した。また、症例内の被ばく線量群間の解析で、被ばくしていない症例と比較して、高線量被ばくした症例で4番染色体のN4BP2遺伝子のSNPが有意なオッズ比(OR=8.14, -Log10P=6.25)を示した。2) 結腸がん発生リスクと放射線被ばく線量との関係をDNA損傷応答関連遺伝子であるCHEK2の異なる遺伝子型ごとに調べた結果、ある特定のCHEK2遺伝子型で結腸がんリスク、特に近位結腸がんリスクが放射線被ばく線量に伴い有意に増加することを見出した。また、近位結腸がんリスクの上昇に対して放射線被ばく線量とCHEK2遺伝子型は有意な相互作用があることが示唆された(P = 0.003)。3) IL6R遺伝子型と原爆被爆者の肺がんリスクとの関係を調べた結果、高い被ばく線量群のある特定のIL6R遺伝子型の集団で、肺がんの相対リスク(RR)が有意に増加していた(RR = 2.08; 95% CI:1.11-3.90)。4)原爆被爆者の2,634名の血液細胞内活性酸素(ROS)レベルと27種類の免疫・炎症関連生体指標の血漿中レベルを測定し、その関連について解析を行った。その結果、細胞内ROSレベル、特にCD8陽性T細胞のO2.-レベルが年齢と被ばく線量により増加 (P<0.05)、また、免疫・炎症関連生体指標との相関を調べた結果、CD8陽性T細胞のO2.-レベルがIL-8とIL-15の血漿中レベルと正の関連を示した(P<0.05)。
2: おおむね順調に進展している
過去に保存されている試料をゲノム・遺伝子解析に関する研究に利用することについて書面での同意は既に得られている。本研究対象者の血液試料からのDNA抽出も完了している。乳がん症例および肝臓がん症例のDNA試料を用いた免疫・炎症・DNA修復関連遺伝子多型のSNPアレイによる同定は当初の計画通り順調に行われた。また、各症例を含む免疫ゲノムコホートのDNA試料を用いたMassアレイ法およびTaqMan法による遺伝子型の同定も順調に行われたが、統計解析は継続中である。さらに、細胞内活性酸素の測定は約3,000名の対象者について完了し、現在、細胞内活性酸素レベルに影響する遺伝子多型について解析を行っている。
SNP アレイを用いた網羅的解析によって見出された遺伝子多型、特に肝臓がんと甲状腺がんで遺伝子型と放射線被ばく線量との相互作用の可能性のある遺伝子の探索を行う予定である。この解析は生物学的意義を加味しながら重点的に推進してゆく。特に、見出された候補遺伝子に関連する免疫・炎症指標やDNA修復関連遺伝子に関係のある生物学的経路(biological pathway)について探索を行い、放射線関連がん発生に関係する経路を明らかにする。これらのアプローチを総合して、疾患感受性、放射線感受性の個人差の背景となる遺伝的要因と放射線被ばくの相互作用を解明することにより、放射線関連疾患の個別予防への基盤を構築する。遺伝子多型と各免疫炎症関連生体指標データおよび生活習慣、環境要因、臨床データを総合して、本調査中に行った疾患の中で特定の炎症関連疾患の高危険群を明らかにするとともに、放射線被ばくにより炎症関連疾患のリスクが特に高くなる集団を特定する。研究対象者全員の遺伝子多型と炎症関連生体指標、ならびに放射線被ばくや食生活等の生活環境に関する情報をデータベース化し、炎症関連生体指標のリアルタイムモニタリングによる放射線関連疾患の個別予防法の基盤を構築する。
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