研究課題
某企業での2004年度から2014年度までの退職者および家族を対象に、医療機関から提出された診療報酬明細書(レセプト)と健診結果のデータを入手し、それぞれの分析と突合を行った。このうちレセプトデータは2009年度から2014年度までが電子化された状態で入手可能であり、年間あたり約4万5,000件が発行されていた。健診データも2009年度以降について電子化された状態で入手可能であり、年間の受診者数は約2万人であった。この期間で突合された受診者数は年間2万人であった。しかし退職者は在職時と異なり健康診断受診は義務ではないため健診受診率が5割以下と低かった。診療行為マスターファイルとの照合で透析治療の記載があったレセプト抽出したところ、年間あたり141~172人が透析治療を受けており、平均年間医療費は500万円を超えていることが明らかとなった。さらに医薬品マスターファイルとの照合を行ったところ、透析患者群は非患者群より経口糖尿病用剤、インスリン注射のいずれも処方率が高かった(2014年度での処方率は31.9%対11.4%)。両群とも経年的に糖尿病薬の処方率が増加しているが、近年は透析患者での経口薬の処方率の増加が顕著であり、透析導入の背景疾患として糖尿病が経年的に増加している傾向が明らかとなった。2009年度の透析利用者で同年度に健康診断を受診した患者は15人と少なかったが、肥満度や肝機能に関しては特徴的な所見は認められなかった。2010年度の突合データから年間総医療費の比較を行うと、飲酒習慣や喫煙習慣を有さない群の方が有する群より高かった。その背景として、高額な医療費につながるような傷病を有する患者は、飲酒や喫煙を抑制しているからと考えられる。他方、肥満度については、高い方が点数も高いことから、肥満がさまざまな疾患の関連要因であることがうかがえる。
3: やや遅れている
企業退職者のレセプトデータと健診データの突合は2009年度から2014年度において可能となった。レセプトデータは紙媒体請求を前提に、非正規形式で多様な情報を1件としてまとめた状態であるため、分析のためにはあらかじめ処理を施して加工しておく必要がある。また各医療機関や調剤薬局から患者ひとりついてひと月ごとに1枚づつ作成されるため、ひとりあたりのデータとして集約するためには名寄せなどなかりの段階を踏む必要がある。傷病名、処方薬、診療行為などはすべて記号化されており、最新の公開マスターファイルと照合しながら翻訳する作業も必要なため、解析にいたるにはかなりの事前作業を要することが、遅れの原因となっている。
企業退職者のレセプト情報と健診情報の突合が可能となったため、生活習慣病の発症リスクの評価を実施する。予測変数は健診データから得られる血圧、脂質、血糖値、肥満などのメタボリックシンドロームに関連する要因から定義づける。またレセプト情報からは高血圧、脂質異常症、糖尿病に対する処方状況を把握できるので、これらの要因を含めた場合や除いた場合の対象者群を設定し、メタボリックリスクの経年的変動やその変動がメタボリックシンドロームの新規発症に与える予測モデルを構築する。さらに本研究では死亡状況と死因に関するデータも入手可能であるので、レセプト記載の傷病名や処方が、どの程度死因と関連するかを明らかにする。また自治体での国保レセプトデータに関しては、個人情報や受診医療機関に関する情報を匿名化するためのマスキングプログラムを作成し、第三者による匿名化処理を施したデータの入手を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件)
PLOS One
巻: 10 ページ: e0117591
10.1371/journal.pone.0117591