研究課題/領域番号 |
15H04795
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井上 貴昭 筑波大学, 医学医療系, 教授 (60379196)
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研究分担者 |
佐々木 信一 順天堂大学, 医学部, 准教授 (40281357)
岡本 健 順天堂大学, 医学部, 教授 (40347076)
角 由佳 順天堂大学, 医学部, 非常勤講師 (40403084) [辞退]
田中 裕 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90252676)
末吉 孝一郎 順天堂大学, 医学部, 助教 (90648297)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Acinetobacter Baumannii / PCR / 院内感染 |
研究実績の概要 |
本研究は、救命センターを有する大病院において院内感染の起因菌となっている多剤耐性Acinetobacter Baumannii(MDRA)について、PCR法を用いた遺伝子解析を実施し、細菌学的特性から適切な隔離対策を構築する画期的な研究である。MDRAの抗菌薬耐性と遺伝子解析の関連性を明らかにすることにより、効率的な院内隔離策を打ち出す、いわば“顕微鏡から院内感染を制御する”micro to macroのtranslational researchである。 本年度は当施設において2009年から2016年において分離培養陽性となったAcinetobacter Baumanniiについて、全遺伝子解析を実施した。該当期間内に当院救命センターに入院した2069名の患者のうち、喀痰培養で細菌分離培養陽性となった症例は357名であった。そのうち59名からAcinetobacter Baumanniiが分離培養された。これらの抗菌薬耐性として、6名は、カルバペネム、セフェム、キノロンの3剤耐性であり、30名は2剤耐性、23名は抗菌薬耐性を保有しなかった。PCR解析の結果、3剤耐性の6名はいずれもOXA-51, ISA-ba1, IMP遺伝子を保有し、2剤耐性の30名はいずれもOXA-51, ISA-ba1 遺伝子を保有した。また薬剤耐性のない23名はOXA-51遺伝子のみ保有していた。従って遺伝子配列を明らかにすることにより、自ずと隔離を要する菌株が明るみになり効率的な隔離対策が構築できることが示唆された。今後Acinetobacter Baumanniiに対して、PCR法を用いた遺伝子解析を実施することにより、一定の隔離基準を確立させ、効率的な感染対策が構築できる可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のメインとなるMDRAの遺伝子解析については、これまでの保菌例全59例についてすべて遺伝子解析が完了し、抗菌薬耐性との関連性が明らかにできている。今後自然保菌期間の後ろ向き及び前向き調査によって隔離期間を明らかにすることを考慮している。 一方で当初予定していた救命センターを有する病院におけるMDRAのアウトブレイク経験や隔離対策などに関するアンケート調査については、菌種同定方法が本研究で採用している専用培地による高感度法によるものでは必ずしもなく、施設によっては外注など、検出感度も異なり、抗菌薬耐性が明らかにできない点もあり、実施については見合わせており、本年度検討を要する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの保菌サンプルを用いたPCR法による遺伝子解析により、これまで当院で分離培養された全59例の遺伝子配列は明らかにされ、OXA-51, ISA-ba1, IMP遺伝子と抗菌薬耐性の関係が概ね明らかとなった。従って、MDRAの遺伝子配列によって隔離の要否は判定できるようになったが、一方でいまだ環境及び生体内におけるMDRAの自然保菌期間が不明瞭である。これまでの保菌者における後方視的及び、再入院時にアシネトバクター属選択培地を用いたアクティブスクリーニングによる前向き調査を実施することにより、保菌期間を明らかにすることを主眼に研究を進める。加えて、MDRAについて、PCR法による遺伝子解析結果など、evidenceに基づく院内感染対策マニュアルの作成をゴールとして研究を推進させる予定である。
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