本研究では脳虚血に伴うミトコンドリアの形態変化と機能との関係を明らかにし、ミトコンドリアの生活反応を指標とした法医脳機能診断法を開発する事を目指している。当該年度は、平成27及び28年度に引き続き、脳虚血モデル系(Oxygen-Glucose Deprivation:OGD処理神経芽細胞種)を用いて、虚血がミトコンドリアの機能及び形態に及ぼす影響を検討した。さらに、脳虚血モデル細胞を固定し、ミトコンドリアの形態を観察した。 ・脳虚血に伴うミトコンドリアの機能変化: OGD処理細胞ではコントロール群と比べ、2時間後に有意な死亡率の増加を認めた。一方、生存率(エステラーゼ活性)は、OGD処理後速やかに減少した。また、細胞呼吸およびミトコンドリア活性はOGD処理時間依存的に低下した。これらの活性は間接的な細胞の生存率の指標として用いられており、これらの残存活性は死戦期における細胞の生活反応に起因している事が示唆された。 ・脳虚血に伴う細胞及びミトコンドリアの形態変化: OGD処理時間依存的に細胞体、樹状突起及び核の委縮を認めた。また、ミトコンドリアの形態は複雑な繊維状の構造から、虚血に伴って糸状およびドット状に変化した。これらの形態変化は、ネクローシスやオートファジーなどの細胞死の過程に関連しており、細胞の機能および生活反応を反映していると考えられた。 ・死後のミトコンドリアの形態: ミトコンドリアの形態変化は固定後の細胞においても保存されていた。即ち、脳虚血後、神経細胞の生活反応によって生じたミトコンドリアの形態変化は、死後の脳においても保存されており、法医脳機能マーカーとして有用であると推察された。
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