研究課題
平成28年度は自然老化マウス(オス、若齢:2~3ヶ月、中齢:12ヶ月、老齢:24ヶ月)を用いて、フレイル関連臓器の加齢変化および機能低下を継時的に検討した。具体的に骨格筋と海馬の加齢変化を形態学的、病理組織学的に評価した結果、骨格筋においては、加齢に伴い筋線維数の低下とともに筋線維の間質拡大や脂肪化が進行することが分かった。海馬においては加齢に伴う神経細胞数の低下とIBA1とMHCII二重陽性の活性化ミクログリア数が増加することが明らかになった。さらに、運動能力および筋力(ロータロッド試験、グリップストレングステスト)を評価したところ、中齢、老齢マウスで有意な低下が認められた。一方、学習能力(モリス水迷路試験)の評価では老齢マウスのみで低下が認められることから、筋骨格系のフレイルから脳・神経系のフレイルへ段階的にフレイルが進行することが明らかになった。また、血管炎症は血管老化の重要な要因であり、心血管疾患の発症・進行のみならずフレイル関連臓器の老化や機能低下に重要な役割をすることが想定される。本研究では大動脈瘤のマウスモデルを用いて、血管炎症が筋骨格系のフレイル及び脳・神経系のフレイルに及ぼす影響を検討した。具体的に若齢と中齢マウスで大動脈瘤を誘導し、運動能力および筋力(ロータロッド試験、グリップストレングステスト)、学習能力(モリス水迷路試験)を評価した結果、若齢マウスにおいては大動脈瘤の誘導により、運動能力および筋力がsham処置マウスに比べて有意に低下した。しかし、学習能力については有意な差は認められなかった。一方、中齢マウスの大動脈瘤誘導群ではsham処置マウスに比べて運動能力および筋力と学習能力いずれも有意な低下が認められることから、血管炎症による老化が筋骨格系のフレイルおよび脳・神経系のフレイルを加速する上流関係にあることが示された。
2: おおむね順調に進展している
フレイルの基盤を成す臓器老化の過程には階層構造が存在することが想定され、その階層構造を明らかにすることで、フレイルと老年症候群の予防・治療の開発へつなげることが本研究の目的である。特に加齢に伴う炎症制御機構の破綻が血管、神経、筋・骨などのフレイル関連臓器への炎症反応の波及・拡大に寄与する仮説のもと、臓器老化の階層構造の解明を追求する。今までの検討により筋、神経などのフレイル関連臓器の加齢変化を形態学的、病理組織学的な評価することができた。さらに、フレイル関連臓器の機能低下を継時的に観察することで筋骨格系から脳神経系へとフレイルが段階的に進行する構造が明らかになった。また、血管老化が筋骨格系および脳神経系のフレイルを加速することが明らかになり、その機序としては慢性炎症が関わることを突き詰めた。今後はフレイル関連臓器に局在する炎症性細胞の形質や炎症性サイトカイン分泌の特徴、SASPを中心に炎症反応の波及・拡大の機序を検討し、フレイルの階層構造を説明できる中核因子を明らかにすることを目指す。
本年度はフレイル関連臓器における階層構造の機序解明を追求する。特に炎症制御機構の破綻に注目して、炎症反応の波及・拡大に寄与する炎症性細胞の形質および役割を明らかにする。筋骨格系から脳神経系への階層関係については、加齢に伴う骨格筋への炎症性細胞の浸潤やその形質を形態学的、病理組織学的に評価し、筋由来の炎症性サイトカインやマイオカイン、SASPの特定を試みる。さらに神経細胞の老化や機能不全に骨格筋由来の因子が直接、あるいは炎症性細胞を介して間接的に影響を与えるかについて検討する。血管老化を上流とした臓器老化の階層関係については、血管内に浸潤してきた炎症性細胞の形質を特定し、その役割を明らかにする。昨年度までの結果ではIL-6を中心とした炎症反応の惹起が血管の老化形質を誘導することが分かった。今年度は関連因子やIL-6の下流シグナル経路を網羅的に検討し、中核因子や新規分子を探索する。さらに、臓器老化の階層構造における性ホルモンの役割やSirt1の重要性については、血管内皮特異的なアンドロゲン受容体欠損マウス(ARflox/flox; Ve-Cad Creマウス)およびSirt1欠損マウス(Sirt1flox/flox; Ve-Cad Creマウス)を用いて、血管傷害の誘導による筋骨格系および脳神経系への影響とともに慢性炎症の寄与を検討する。
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