研究課題
我々はCat-KがNotch1受容体の細胞内ドメインを切断しNotch1活性化に重要な役割を果たしていることを明らかにした。その結果よりCat-KはNotch活性化を介して骨格筋の再生を促し、老化マウスにおける障害後の筋肉再生に関与するのみならず、サルコペニアに対しても保護的に働くのではないか、との仮説を立て、平成27年度から研究を実施した。しかし、結果は全く逆であり、cardiotoxin(CTX)による急性骨格筋障害の後に誘導されるCat-Kの高発現により、炎症が増強し筋肉再生が抑制されることが明らかとなった (J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2018; 9(1):160-175)。すなわち、Cat-K遺伝子欠損マウスやCat-K特異的阻害剤により急性障害後の白血球の浸潤、アポトーシスが抑制され、筋肉再生、筋力の回復を促進した。生化学的な検討ではCat-Kを欠損または抑制することにより、障害後のToll-like receptor-2, 4の発現低下、その下流の種々の炎症性サイトカインやアポトーシス関連タンパクの発現が低下した。この結果はCat-Kが炎症誘導に重要な働きを担っていることを意味している。培養実験の結果も同様で、筋芽細胞株であるC2C12細胞にCTXを添加することにより、Cat-Kの発現が誘導され、誘発されるアポトーシスならびにアポトーシス関連タンパクであるBAXやcaspase-3, cleaved caspase 8の発現はCat-K阻害剤により抑制された。これらの結果は障害されたC2C12細胞にCat-Kの発現増加が起こり、骨格筋障害によるアポトーシスならびに炎症自体がCat-Kに依存しており、その経路をブロックすることにより、アポトーシス・炎症を抑制し、筋肉再生を促進する機構が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者は、実験計画書の通りに研究を進め、3年目の計画通り成果を収めた。1)平成29年度は、CatK の選択的阻害剤(ONO-KK1-300-01)を使用して、CTXによる骨格筋障害後の筋再生につき検討した、この阻害剤の低栄養量(3mg/kg)と高容量(30mg/kg)を障害の2日前より連日、組織の採取を行う障害14日目まで連日経口的に投与した。CatKKOで認めたほぼ同様な結果が得られ、阻害剤の容量依存的に骨格筋の急性障害後の白血球の浸潤、アポトーシスが抑制され、筋肉再生、筋力の回復を促進した。生化学的な検討では選択的阻害剤によりCat-Kを抑制することにより、障害後のToll-like receptor-2, 4の発現低下、さらにはその下流の種々の炎症性サイトカインやアポトーシス関連タンパクの発現が低下した。2)これらマウスを使用した動物実験の結果は筋芽細胞株であるC2C12細胞でも確認することができた。すなわち、CTXによりCat-Kの発現が誘導され、誘発されるアポトーシスならびにアポトーシス関連タンパクであるBAXやcaspase-3, cleaved caspase 8の発現はCat-K阻害剤により抑制された。これらの結果は障害されたC2C12細胞にCat-Kの発現増加が起こり、骨格筋障害によるアポトーシスならびに炎症自体がCat-Kに依存しており、その経路をブロックすることにより、アポトーシス・炎症を抑制し、筋肉再生を促進する機構が考えられた。さらに我々はin vitroでCat-Kがcaspase 8 をcleaveすることを発見し、Cat-Kとアポトーシスとの関連を明らかにした。
【今後の研究の推進方策】カヘキシアにおけるCatKの関与に関して当該研究の最初の仮説はCatKによりNotchの活性化を介して筋肉再生が促進されるというものであったが、結果は逆であり、障害後骨格筋でのCatK発現の上昇がむしろ筋肉再生を阻害する要因であることが明らかにした。この点を利用し、現在多くの疾患で臨床的にも問題となっているカヘキシアによる骨格筋移植とCatKとの関係をマウスのカヘキシアモデル(C57BL/6Jにマウス肺癌細胞株(Lewis lung carcinoma, LLC,1×106個)を側腹皮下に移植し,移植28日後にサンプリングする)を作成し、下肢筋肉の評価、ならびに経過中の運動機能を評価する。またサンプリングした筋細胞ならびに末梢血の生化学的検査を実施する。特に組織におけるCatKの発現、アポロ―シス、炎症細胞の浸潤などの評価を重要視する。上記カヘキシアモデルにより万が一サルコペニアの誘導ができなかった場合は、心不全モデル(Angiotensin II 投与モデル:Angiotensin IIを背部皮下に埋め込んだ浸透圧ポンプを使用して持続的に投与する(500ng/kgBW/min)。7日後にサンプリング)を使用する計画でいる。当方はCatK KO マウスさらには阻害剤を所有しており、同時にKOマウスを使用して、上記のカヘキシアモデルによるサルコペニアが抑制されるか否かを検討する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
J Cachexia Sarcopenia Muscle.
巻: 9 ページ: 160-175
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Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle.
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