研究課題/領域番号 |
15H04804
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
正宗 淳 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (90312579)
|
研究分担者 |
濱田 晋 東北大学, 医学系研究科, 助教 (20451560)
田口 恵子 東北大学, 医学系研究科, 助教 (20466527)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | KPCマウス / Nrf2 / Keap1 |
研究実績の概要 |
本年度はNrf2の恒常的活性化をKPCマウスに付加するため、Nrf2の分解に関わるアダプター分子であるKeap1 flox/floxバックグラウンドを導入することとした。膵特異的なNrf2の活性化を代表的な標的遺伝子であるNqo1の免疫染色で確認したところ、Pdx-1発現がみられるラ氏島細胞、膵導管細胞に一致して染色性が認められた。変異K-ras発現およびKeap1コンディショナルノックアウトを併せ持つマウスでは当初膵発癌が促進されることを想定していたが、予想とは異なりこのgenotypeのマウスでは進行性の膵実質脱落と線維化を来すことが明らかとなった。このマウスでは生下時より通常給餌を行っていても著明な体重減少を来し、生後60日までに大部分が死亡した。死亡直前のマウスは低血糖を呈していたが、血清中インスリン・グルカゴン濃度はコントロールマウスと有意な差を認めず、低血糖の原因は内分泌異常ではなく膵外分泌不全による吸収不良が主因であることが示唆された。Keap1はオートファジー関連分子であるp62との相互作用が報告されているため、免疫染色でp62発現の増加がみられるかを確認したが有意な発現の変化は見られなかった。膵組織の電顕観察ではオートファジーの異常を示唆するオートファゴソームの形態異常等は指摘できず、変異K-rasとKeap1欠損によって膵組織の細胞死が誘導されるメカニズムとして、小胞体ストレスの増加やオートファジーの異常が関与する可能性は少ないと予想された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はNrf2欠損バックグラウンドを導入したKPCマウスに加え、膵特異的Keap1欠損バックグラウンドを導入することに成功した。本マウスの解析によって変異K-ras発現とNrf2の恒常的活性化が予想外に膵組織の変性脱落・線維化形成に至ることが明らかとなりKeap1-Nrf2経路は膵組織において発癌促進以外の作用をも有していることが判明した。このような多面性はこれまでに類を見ないものであり、酸化ストレス応答機構が有する新たな生物学的意義の解明が期待される。以上の結果より、本研究計画の進捗はおおむね順調であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降はKeap1 flox/floxバックグラウンドを導入したKPCマウスにさらにNrf2-/-またはNrf2+/-バックグラウンドを追加し、変異K-rasとKeap1欠損による膵組織の変性脱落・線維化がNrf2に依存しているかを確認する。また、この現象に関わる下流の標的分子を同定するため、KPC::Keap1 fl/fl::Nrf2+/-マウスとKPC::Keap1 fl/fl::Nrf2-/-マウス膵組織からの細胞株樹立を行い、マイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルの比較を試みる。また、Nrf2欠損は膵発癌・ゲムシタビン耐性を抑制することも明らかになったため、近年同定された新たなNrf2の特異的阻害剤を用い、これまでに樹立したKPCマウス由来膵癌細胞株の抗癌剤感受性を増強できるかも検討する。ヌードマウス皮下移植モデル・膵同所移植モデルおよびKPCマウスへの阻害剤投与も実施し、新規阻害剤の治療応用のための基礎検討を実施する予定である。Nrf2欠損によって発現が変化する遺伝子群についても、その制御機構の詳細を明らかにするための検討を行う。
|