研究課題
本邦では潰瘍性大腸炎患者が急増しており、それに伴う発癌患者の増大が懸念されている。炎症発癌の特徴は粘液産生癌が多いことであるが、我々は腸管上皮分化制御因子であるAtoh1の蛋白安定性がTNFαなどNFkBシグナルと関与することを見いだし、持続炎症状態における上皮細胞変化が粘液形質を伴った発癌形質に影響すると考えた。そこで我々は世界で初めてマウス大腸上皮幹細胞の初代培養系を確立し、初代培養細胞における持続炎症刺激モデルを構築し、長期間刺激にて自然免疫応答がスパイラル状態にあることを発見した。そこで、本研究では初代培養における応答スパイラル機構を解明し、潰瘍性大腸炎の大腸上皮初代培養細胞によるスパイラル状態評価法を構築することで、炎症発癌の発症を抑制することを目的とする。マウス大腸上皮初代培養細胞にFlagellin, LPSなどの菌体成分、TNFα, IL-6などの炎症性サイトカインを添加し自然免疫応答を確認する。長期刺激による大腸上皮細胞の網羅的遺伝子発現をマイクロアレイにて抽出し、刺激時間による応答差異を同定する。長期刺激における細胞形質転換解析として初代培養細胞のゲノム、エピゲノム変異の有無を確認しスパイラルとの関連機構を同定する。さらに健常人由来及び潰瘍性大腸炎患者由来の大腸初代培養細胞における定常状態の評価を行う。大腸幹細胞を可視化した後にマウス同様に刺激を行い、免疫応答スパイラルの存在を確認するとともに、潰瘍性大腸炎上皮幹細胞での過剰応答の有無を評価する。さらに長期刺激におけるがん化機構を解析し、新規治療薬開発への基盤を構築する。
2: おおむね順調に進展している
マウス大腸上皮から初代培養を樹立した。安定した持続培養が可能であり、各種サイトカイン添加による上皮応答も確認した。すでに1年間持続的に炎症刺激を行っており、炎症シグナルの亢進状態を認めている。マイクロアレイにより、長期持続特異的発現遺伝子も同定しており、これらの遺伝子の機能を解析中である。また一部細胞形質転換を認めており、炎症刺激を除去しても完全に元に戻らない現象も発見している。酸化ストレス誘導遺伝子も同定し、炎症暴露による上皮細胞応答度を評価する良い指標であることが示唆された。以上の結果は炎症性腸疾患(IBD)患者の長期罹患による炎症暴露の影響を模倣したものであったことからIBD専門誌に投稿し、受理されている。また、プレスリリースも行うなど大きな反響を得ている。以上より、当初の予定通り概ね順調に遂行できている。
持続炎症をさらに長期に進める。長期炎症刺激による細胞内シグナル伝達の異常を新たに発見しており、シグナル伝達異常の原因検索を行う予定である。さらに、ヒト細胞でも同様に炎症刺激を行い、真のIBD体外モデルの樹立を目指す。また、長期炎症によりがん形質の一部を獲得することから炎症発がんの経過を模倣していることが考えられ、炎症発がん機構の解明を試みる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 9件、 招待講演 4件)
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