研究課題/領域番号 |
15H04813
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
溝口 充志 久留米大学, 医学部, 教授 (50258472)
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研究分担者 |
小松 誠和 久留米大学, 医学部, 講師 (50343687)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 制御性形質芽細胞 / インターロイキン10 / 潰瘍性大腸炎 / Preg / マウスモデル |
研究実績の概要 |
自己反応性形質細胞とIL-10産生制御性B細胞の共存が潰瘍性大腸炎をはじめ多くの疾患で明らかになっているが、これまでB細胞と考えられていたIL-10産生細胞が形質芽細胞である可能性を我々は認めている。よって、本研究はIL-10産生形質芽細胞(Preg細胞)の発生機序を解明することにより、免疫抑制のための新たな細胞療法開発の基礎基盤を樹立する事を目的とする。 この最終目的達成のため、平成28年度は1)転写因子Blimp-1のPreg細胞分化における必要性の検討、2)免疫グロブリンクラススイッチのPreg細胞分化への関与の検討、3)Preg細胞の免疫学特性の検討が目標であった。以下に示す様に、目標1)と目標3)は充分に達成され、目標2)は結果に基づき新たな仮説のもとに進行中である。 目標1)未成熟B細胞の表面マーカーであるCD93を発現するIL-10産生B細胞群は、B細胞特異的なBlimp-1の欠失により正常状態および腸炎状態においても消失した。よって、未成熟B細胞マーカーを異所性に発現する特殊な形質芽細胞がIL-10産生細胞であると考えられる。 目標2) 免疫グロブリンクラススイッチに必要なActivation-induced cytidine deaminase(AICD)を欠失させたマウスにおいて、IL-10産生形質芽細胞の優位な減少は認めなかった。よって、免疫グロブリンクラススイッチ自体はPreg細胞分化には関与していない事が示唆された。一方、抗原特異的なB細胞受容体シグナルに必要なCD19欠失においてPreg細胞分化が障害される可能性を見出した。 目標3)健常時に脾臓に存在し、腸炎の状態で腸管膜リンパ節に移動し増殖するPreg細胞は、どちらの臓器においてもIgAを選択的に細胞表面に発現していることを認めた。また、分泌型IgAも細胞質内に検出され、Preg細胞はIL-10産生後に形質芽細胞から形質細胞に分化する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Preg細胞の発生機序の解明を目的とした平成27年度及び平成28年度の研究助成により、免疫抑制サイトカインIL-10を恒常的に産生できるPreg細胞は未成熟B細胞抗原であるCD93を異所性に発現し脾臓に潜在的に存在し、腸炎に伴う炎症刺激により脾臓より腸管膜リンパ節に移動して増殖する事、Preg細胞への分化には転写因子であるBlimp-1が必要な事、Preg細胞はIgAを選択的に産生する事など新たな知見を見出している。 平成28年度は、IL-10産生時に緑色蛍光を発するレポーター(GFP/10)マウスと形質細胞への分化に必須のBlimp-1をB細胞特異的に欠失させたConditional knockoutマウスを交配させたモデルを使用して、Preg細胞はCD19やCD93といったB細胞マーカーを発現しているにも関わらず形質芽細胞であることを同定した。さらに、慢性腸炎モデルあるT細胞受容体α欠失マウスと交配することにより、炎症下で誘導されるIL-10産生B細胞も形質芽細胞であることを同定した。 GFP/10マウスに免疫グロブリンクラススイッチに必要なAICDを欠失させたマウスではPreg細胞の明らかな減少は認めなかった。一方、当初の計画に加えてGFP/10マウスに抗原特異的シグナルに必要なCD19を欠失させたところ、Preg細胞の消失が認められた。よって、Preg細胞の発生には、抗原特異的刺激は必要であるが免疫グロブリンクラススイッチは必須でないと考えられた。 IL-10産生能を有するPreg細胞は正常時の脾臓において、また腸炎下の腸管膜リンパ節においても選択的にIgAを細胞表面に発現すると共に、分泌型IgAの細胞質内貯留する事も認めた。よって、Preg細胞はIgA分泌形質細胞に最終的に分化する形質芽細胞の可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、大腸炎におけるPreg細胞の役割検討を主目標として以下の実験を行う。 1)Preg細胞欠失による腸炎への影響を検討する。慢性腸炎モデルあるT細胞受容体α欠失マウスにBlimp-1遺伝子をB細胞特異的に欠失させたマウスを用いて、腸炎の発症を臨床的(下痢と体重減少)に生後6か月まで観察した後、マウスを安楽死させ腸炎の重症度を肉眼的及び組織学的に評価する。 2)Preg細胞が腸炎治療に使用できる可能性を検討する。平成28年度の結果をもとに、CD19欠失(CD19-/-)マウスも当初の予定に加えて検討を行う。Preg細胞が欠失した慢性腸炎モデルのB/Blimp-/- x TCR-/-マウスをレシピエントとして、異なったB細胞を移入して腸炎に及ぼす影響を検討する。ドナーとして使用するB細胞群はa)Preg細胞と形質細胞のどちらにも分化できるGFP/10マウスからのB細胞、b)形質細胞には分化できるがPreg細胞に分化できないCD19-/- x GFP/10マウスからのB細胞、c) Preg細胞に分化できるがクラススイッチ障害によりIgAが産生ができないAIDC-/- x GFP/10 マウスからのB細胞、d)Preg細胞と形質細胞のどちらにも分化できないB/Blimp-/- x GFP/10マウスからのB細胞の4群を使用する。また、平成28年度の結果より、Preg細胞はIL-10産生後にIgA分泌型形質細胞へ最終分化する可能性が推測される。よって、この可能性を検証するため a群投与レシピエントにおいて、GFP陽性Preg細胞とGFP陰性IgA陽性形質細胞のB細胞受容体の一致性を次世代シークエンスにより解析し、b群投与レシピエントにおいて腸管膜リンパ節および大腸でのIgA産生をELISPOT法にて検討する。
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