研究課題
【目的】 本研究の目的は、心血管病発症における酸化ストレス分泌蛋白サイクロフィリンA (CyPA)およびその受容体Basiginの基礎研究成果を基盤とし、臨床応用研究を加速させ、迅速診断薬開発や治療薬スクリーニング(創薬)を行うことにある。【結果】 遺伝子改変動物を用いた基礎研究を継続し、CyPAが肺高血圧症にとって重要蛋白であることを確認し、論文発表を行った。さらに、分泌蛋白としての特徴に着目し、ヒト肺高血圧症患者の末梢血での血漿中CyPA濃度の測定法を開発し、患者群で健常者群に比較して、濃度が上昇していることを確認した。さらに、CyPA高濃度群と低濃度群に分け、長期的な予後調査を行ったところ、血漿中CyPA濃度が高い群で、明らかに生命予後が不良であった。さらに、患者由来の組織や血液検体およびハイスループット・スクリーニング(HTS)システムを用い、CyPA分泌抑制・細胞外CyPA受容体阻害に着目した治療薬のスクリーニングを進めた。スクリーニングはほぼ終了し、現在、in vivoにおける検討を進めている。【学会・論文報告】 以上の研究成果を、国内外の学会やシンポジウムで報告し(日本循環器学会総会シンポジウム、米国心臓病学会議、欧州心臓学会議)、12編の論文発表および特許申請を行った。さらに、4542の既存薬ライブラリーからのハイスループットスクリーニングにより、有効な低分子化合物が数種類まで絞り込まれ、新しい治療薬としての可能性につきin vivoで評価を進めると共に、学内での特許申請登録を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
基礎研究の臨床応用を進める本研究計画において、既に、患者由来の組織や血液検体およびハイスループット・スクリーニング(HTS)システムを用い、CyPA分泌抑制・細胞外CyPA受容体阻害に着目した治療薬の1st~2nd スクリーニングが、当初の予定より早く、順調に進んだ。現在、in vivoにおける検討段階に入っていることから、上記区分の判断とした。研究1.CyPA分泌抑制に着目した新しい心血管病治療薬開発:既に臨床応用されている既存薬剤ライブラリープレートを利用し、CyPA分泌阻害という切り口で、心血管病治療効果を有する分子のスクリーニング(HTS)を進めている。既に、選択的Rhoキナーゼ阻害薬やスタチンは血管平滑筋細胞からのCyPA分泌を抑制することを確認した。降圧薬や糖尿病薬、脂質異常症治療薬など、直接的もしくは間接的に心血管組織の酸化ストレス抑制効果のある既存薬剤の中から、より効率的にCyPA分泌を抑制できる薬剤をスクリーニングしている。研究2.CyPA受容体Basigin阻害に着目した新しい治療薬開発:CyPA/Basigin阻害による酸化ストレス制御に着目した新しい治療薬の開発を進めている。当科の遺伝子改変動物(CyPA, ROCK1, ROCK2, Basigin)を駆使し、分子学的機序の基礎研究を継続している。また、薬学系研究科との共同研究により、HTSを用いたBasigin阻害薬検索を進め、動物モデルでの有効性を確認した。研究3.細胞外CyPA吸着による新しい心血管病治療薬開発:CyPAはHIV感染やHCV複製の必須蛋白でもあり、創薬が盛んである。様々なCyPA阻害薬が開発されており、細胞外CyPAと結合するが、細胞内に取り込まれない化合物が開発された。細胞外へ分泌されたCyPAを選択的に吸着・阻害することで、細胞内CyPAの生理学的な役割に影響することなく、心血管病発症を抑制できる可能性があり、各種の心血管疾患モデル動物を用いた検証を開始した。
1. CyPA分泌阻害薬のスクリーニング(HTS)と疾患モデル動物における有効性の検討:平成27年度にスクリーニングで絞り込んだ複数の薬剤を用い、実際の疾患モデル動物(肺高血圧症・動脈硬化・大動脈瘤・圧負荷心肥大モデル)における治療有効性を評価する。既に、幾つかの候補物質について、低酸素性肺高血圧症モデルでの検討を開始している。2. インフォマティックス技術を用いたCyPA-Basiginによる炎症遷延機構の解明:サイトカイン・アレイで得られた情報をインフォマティックス技術で多角的に解析し、細胞外CyPA-Basigin系と最も相関を示すサイトカインや増殖因子の絞り込みを行う。その分子学的基盤を確認するため、目的因子の遺伝子改変動物を用いた心疾患モデル解析実験を行う。3. 組織特異的Basigin遺伝子改変マウスにおける検討:細胞外CyPAとBasiginが互いに相加相乗的に肺高血圧症を促進することを報告したが、まだ不明な点が多い。Basiginは、細胞外部分が可溶型(sBsg)として切断・放出されることが分かっている。我々が開発した、平滑筋特異的Basigin遺伝子改変マウス(過剰発現と欠損)を用いて細胞外CyPAによる可溶型放出およびシグナル伝達機構の詳細を解明する。また、平成27年度にスクリーニングで絞り込んだ複数のBasigin阻害剤を用い、心血管病治療効果やsBsg放出抑制効果を、対照マウスと比較検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 7件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 12件、 謝辞記載あり 14件) 学会発表 (65件) (うち国際学会 45件) 図書 (3件) 備考 (1件)
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