研究課題
高齢化社会の進行とともに心不全患者数は増加傾向にあり、その治療法の開発は保健衛生上きわめて重要な課題である。ナトリウム利尿ホルモンは心臓から分泌され、心不全時にその発現が顕著に誘導される。そのため心不全重症度の分子マーカーとして広く臨床応用されているだけでなく、その利尿作用・血管拡張作用等により心不全治療にも使用されている。しかし心不全時におけるその発現誘導のメカニズムは意外なことに不明である。ナトリウム利尿ホルモンの心不全治療における有用性は明らかであるが、ペプチドであるため注射剤しか使用できない。一方、経口ネプラマイシン阻害剤はペプチドホルモンの分解酵素を阻害し血中ペプチドホルモン濃度を上げ心血管イベントを減少させることが報告された。しかし、そのナトリウム 利尿ホルモンに対する特異性は疑問視されている。そこでより直接的にナトリウム利尿ホルモンを発現誘導させる薬剤を開発するために、心不全時のナトリウム利尿ホルモンの発現メカニズムを検討し、その誘導に重要な遺伝子部位の同定に成功している。本事業では、同定された制御部位の狭小化を行ったうえで制御部位アッセイ系の高感度化、制御タンパク質の精製・同定、さらにこれらの活性制御につながるシグナル経路の同定を行い、ナトリウム利尿ホルモン活性化シグナル系を創薬標的とした新たな心不全治療薬の開発を行うことを目的とする。27年度は、ナトリウム利尿ホルモン誘導にかかわる部位の狭小化を行うため、多数の変異体を作成し生体内・生体外で活性誘導アッセイを進め狭小化に成功した。さらに、本調節部位に結合するタンパク質を精製し、数種の候補制御タンパク質の同定に至った。狭小化された制御遺伝子部位をもとに、ウイルスヴェクターを使用した活性制御タンパク質アッセイ系を新たに構築し、制御機構の解明をさらに進めていく予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
研究開始時に、エンハンサー領域は600bp程度(CR9領域)まで狭められており、結合タンパク質精製のためのプローブとしては適切な塩基長であった。しかし、ネガティブコントロールとして使用するプローブの設計、結合する転写因子の種類および数の推定のために、さらなる領域の狭小化が必要であった。そこで30bp単位の欠損部を有するCR9変異体を10種程度作成し、生体内・生体外でそのエンハンサー活性を計測した。結果、CR9領域内の120bpの範囲に活性部位が2か所存在し、それぞれが必須であることが明らかとなった。そこで、この120bpを制御タンパク質のアッセイ系用の遺伝子領域として利用することとした。同時に、CR9配列をビオチン化核酸として合成し、精製用プローブとして利用して活性制御タンパク質の同定を行った。結合タンパク質の精製原料としては、大動脈縮窄により作成したマウス心不全心及びラット培養心筋細胞を使用した。それぞれのホモジネートから収縮タンパク質を沈殿分離した後、造影剤を使った密度勾配により分画を行った。各分画において上記で合成したビオチン化DNAプローブとストレプトアビジンビーズによる結合タンパク質のアフィニティ精製をおこなった。高塩および尿素の2段階で溶出を行い、それぞれに含まれるタンパク質をショットガンプロテオミクスにより定性した。この操作を心不全6検体、心筋細胞で10検体繰り返し、再現性良く結合するタンパク質を約10種検出した。これらの候補遺伝子のアデノウイルス発現ヴェクターを作成しCR9および狭小化CR9レポーターを発現する培養細胞に導入した。
27年度に同定された結合タンパク質の中でどれがあるいはどの組み合わせがCR9およびCR9レポーターの発現に必要十分であるかを検討することが最も重要なプロジェクトである。すでに従来より報告のある転写因子ではCR9エンハンサーは活性化されないことを確かめており、全く新規の転写因子の組み合わせが本エンハンサーの活性化には必須であることが予想される。質量分析で同定された結合タンパク質候補が10種以上になったが、すべてのタンパク質のアデノウイルスコンストラクトを作成しアッセイ系に導入する計画である。27年度に実行されたCR9領域の狭小化の際に見られた2つの結合部位候補の関係より、予想では2種以上の結合タンパク質の組み合わせがエンハンサー活性に必要と考えられている。そのため、10種の候補タンパク質すべてにおいてサブトラクション法による活性制御タンパク質群の同定も同時に行う予定である。アッセイ系としては心筋細胞および心筋特異的転写因子を発現していない293T細胞などのヒト細胞系を使用する予定である。さらにこれらのシグナル因子の生体内での高感度アッセイ系の構築もすすめる。現在使用している発光レポーター(ルシフェラーゼ)コンストラクトの最小プロモーター部分に、サイトメガロウイルス由来でなくマウス由来のさまざまな最小プロモーターを導入することにより高感度化を目指す。さらにレポーターに関しては2A-GFPあるいは2A-近赤外励起波長をもつタンパク質を付けたプローブを新たに導入し、生体内外での詳細な発現解析の洗練化を行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件)
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