研究課題
心不全症例では心筋細胞内のミトコンドリア形態異常を伴うことが多い。しかしながらその制御機構には不明な点が多い。心筋細胞内におけるミトコンドリアの融合・分裂やオートファジー性分解(マイトファジー)を含めたミトコンドリア恒常性維持システムの多面的解析を通じた心不全病態の理解と新規治療標的の探索を行うものである。本年度はミトコンドリア分解機構に関わる新規分子機構の探索ならびにその機能解析を行った。ミトコンドリア特異的オートファジーであるマイトファジー必須分子として、酵母においてはAtg32が同定報告されているものの、哺乳類細胞におけるAtg32の機能的ホモログは同定されていなかった。私たちは細胞死関連因子として知られるBCL2関連蛋白質の一つであるBCL2L13がミトコンドリア外膜上に発現しており、ミトコンドリアの分裂を誘導すると共に、マイトファジーレセプターとして機能することを明らかにした。BCL2L13過剰発現によりミトコンドリアは分裂するが、siRNAを用いたノックダウンによりミトコンドリア伸長が認められた。この分裂誘導にはBCL2L13に存在するBHドメインが関与しており、BHドメイン欠失変異体ではミトコンドリア形態変化は誘導されなかった。さらにBCL2L13はLIRモチーフを介してオートファジー関連蛋白質であるLC3と結合することを明らかにした。LIRモチーフの変異体BCL2L13はミトコンドリア分裂を誘導可能であったが、マイトファジーは誘導されなかった。またBCL2L13はAtg32欠損酵母においてマイトファジーを回復することから、Atg32の機能的ホモログであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度においては目的としていたマイトファジー分子機構の解明に成功した。すなわち、ミトコンドリア分解機構であるマイトファジーに関する分子機構としてAtg32と同様の構造を持つ蛋白質の解析を行い、新たにBCL2L13の同定ならびに機能解析を行った。また心筋におけるミトコンドリア膜電位喪失とマイトファジーの関連を解明するための、遺伝子改変マウス作出も完了しており、これらの機能解析を進めていく。またマイトファジー検出系としてのmKeima恒常的発現細胞の樹立ならびに機能解析も完了している。さらに心筋特異的にミトコンドリア分裂を抑制する遺伝子改変マウスの作出も行っており、まもなくその生理学的解析を開始可能な状態である。以上よりおおむね順調に進展していると判断される。
現在までの進捗状況の通り、ミトコンドリア分裂融合ならびにマイトファジーに関わる新規分子の同定に成功しており、今後はこの分子が心筋細胞ならびに心臓、心不全を含めた病態においてどのような機能を発揮しているかについて、新たな遺伝子改変マウス作出および生理学的機能解析を進める。さらに心筋におけるミトコンドリア膜電位喪失とマイトファジーの関連についての研究を推進するとともに、心筋細胞特異的ミトコンドリア分裂抑制マウスを用いて、ミトコンドリアダイナミクスが心臓病態において有する機能を解析する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
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