研究課題
高齢者では、免疫老化、すなわち、1.獲得免疫応答能の低下(易感染性、感染の重症化、ワクチン効率の低下、免疫監視機構 の低下)、2. 炎症性素因の増大(心血管・代謝性疾患発症率の増加)、3.自己免疫応答の増大によって、癌、感染症、心血管・代謝性疾患発症率のリスクが増大する。一方で、我が国における糖尿病患者の死因も、癌、感染症、心血管病が上位を占める。以上より、糖尿病患者では免疫老化が加速しているのではないかと考えられる。糖尿病患者における心血管・代謝性疾患の発症基盤として、内臓脂肪の蓄積とそれに伴う内臓脂肪組織の慢性炎症が注目されている。そこで、肥満と免疫老化をつなぐ分子基盤として、CD4 T細胞の老化に着目して研究を行った。我々は、加齢に伴って2次リンパ組織中に出現する老化T細胞(CD153+ PD-1+ CD44+ CD4 T細胞)が、内臓脂肪の蓄積に伴って内臓脂肪組織中に出現、この細胞がオステオポンチン(OPN)の産生を介して、内臓脂肪の蓄積に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症や代謝異常(インスリン抵抗性)の起点となっていることを証明した。CD153+ PD-1+ CD44+ CD4 T細胞を痩せた若齢マウスの内臓脂肪組織に免疫移入するだけで、内臓脂肪の慢性炎症と全身のインスリン感受性低下が再現された。OPNには、免疫細胞を活性化して炎症を惹起するだけでなく、線維化を促進させる作用がある。肥満したマウスの血液中OPN濃度は高く、OPNは遠隔臓器のリモデリング(動脈硬化や心不全)にも関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
内臓脂肪の蓄積に伴って、高齢マウスの2次リンパ組織中に出現する老化T細胞(CD153+ PD-1+ CD44+ CD4 T細胞)が若齢マウスの内臓脂肪組織中に出現することを発見、CD153+ PD-1+ CD44+ CD4 T細胞を痩せた若齢マウスの内臓脂肪組織に免疫移入するだけで、内臓脂肪の慢性炎症と全身のインスリン感受性低下が再現されることを確認し、CD153+ PD-1+ CD44+ CD4 T細胞がオステオポンチン(OPN)の産生を介して、内臓脂肪の蓄積に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症や代謝異常(インスリン抵抗性)の起点となっていることを証明し、この成果を論文化した(Shirakawa K. Obesity accelerates T-cell senescence in visceral adipose tissue. J Clin Invest. 2016 126(12):4626-4639)。この点は、順調に進展していると評価できる。しかし、CD153+ PD-1+ CD44+ CD4 T細胞を制御することによって、内臓脂肪の蓄積に伴う内臓脂肪組織の慢性炎症や代謝異常が抑制できるかが証明できていない。
昨年度までの成果として、昨年12月に加齢とメタボリックシンドロームに伴う代謝・心血管障害に加齢関連CD4+ T細胞が共通して関与していることを報告した (Shirakawa K., Sano M, Obesity accelerates T cell senescence in murine visceral adipose tissue. J Clin Invest. 2016 Dec 1;126(12):4626-4639)。本年度は、加齢関連CD4+ T細胞、すなわち、CD153+ PD-1+ CD44high CD62Llow CD4+ T 細胞の特徴、ならびに、内臓脂肪組織中で生成、蓄積される機序を検討して、T細胞の免疫老化を制御することによって加齢とメタボリックシンドロームに伴う心血管障害を制御する方法論の開発に道筋をつけることを目標とする。我々は、加齢関連CD4+ T細胞の特徴であるCD153が、単なるマーカーではなく、機能的にも重要な役割を担っていることを発見した。CD153+ PD-1+ CD44high CD62Llow CD4+ T 細胞の中でCD153の発現量とOPNの産生量が比例していた。CD153を標的とした治療によって、加齢関連CD4+ T細胞の蓄積を抑える治療法の開発をめざす。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 図書 (3件)
J Clin Invest
巻: 126(12) ページ: 4626-4639
10.1172/JCI88606