研究課題
申請者らは40歳以上で発症した喘息を対象としたGWASを施行し、HCG22遺伝子を新規喘息感受性遺伝子として同定し、論文発表した(J Allergy Clin Immunol 2016)。同遺伝子はCOPDやび慢性汎細気管支炎とも有意に関連した。 一方、呼吸機能(一秒率)のGWASでは有意な遺伝的関連は認められなかったが、GWASの結果から検討した呼吸機能の遺伝率は50%以上であり(Respir Invest 2015)、個々の遺伝因子の影響は強くないが、多数の遺伝因子の集合的な影響によって呼吸機能が規定されていることが推測された。そこで、過去に欧米で報告されている23の呼吸機能関連遺伝子情報を用いて、呼吸機能に対する遺伝的Risk Scoreを構築し、喘息及びCOPDとの関連を検討した。独立した2つの喘息コホートさらにはCOPDコホートにおいて、健常者と比較し、喘息患者、COPD患者それぞれで有意に呼吸機能関連Risk Scoreが高い値を示した。遺伝子間の機能的関係を予測するGene Relationships Across Implicated Loci (GRAIL)プログラムによって16遺伝子の機能的な関連を探索したところ、複数の遺伝子間に強い関連が認められ、何らかの分子パスウェイの存在が示唆された。さらに、呼吸機能関連Risk Scoreがどのような喘息患者において高値を示すのかを明らかにするために814名の日本人成人喘息患者を対象として、呼吸機能関連Risk Score、発症年齢と一秒量を用いてクラスター解析を行ったところ、5つの喘息クラスターが同定され、特に発症年齢が若く、呼吸機能が低下したフェノタイプで呼吸機能関連Risk Scoreが高値を示した。これらの発見を論文として報告した(PLoS ONE 2016)。
2: おおむね順調に進展している
難治性気道疾患の種々のPhenotypeの背景に存在する多様な分子病態(Endotype)を明らかにすると同時に、個人の遺伝情報からどのようなPhenotype/Endotypeを有するリスクが高いかを予測する統計学的なモデルの構築を目指すために重要となる、これまでの我々の検討を、複数の論文として報告した。これらの報告を踏まえて、臨床因子に加えて複数の遺伝因子における遺伝子型の情報を用いてクラスター解析を行うことができるようになる。このアプローチによって特定の遺伝因子の影響を受けた、新たなPhenotype/Endotypeを探索することが可能となる。
新たな喘息やCOPDの分子病態となりうるエンドタイプの探索に向けて、約900名の健常人、300名の喘息患者、300名のCOPD患者の血清を用いて、IL-6及び高感度CRPの測定を行った。平成28年度は健常者においてIL-6及び高感度CRPを対象としたGWASを実施する。過去のIL-6や高感度CRPに対するGWASの結果も踏まえて、全身性炎症を背景とした遺伝子リスクスコアを構築する。一方、欧米において小児期発症の重症喘息と強く遺伝的に関連し、さらにライノウイルスCの受容体であることが解明されたCDHR3蛋白が、日本人の成人喘息発症やその病態に与えている遺伝的影響を検討する。これらの結果からは、IgE、呼吸機能、発症年齢、喫煙、などに着目して行ってきた我々の研究結果と合わせることで、難治性気道疾患の種々のPhenotypeの背景に存在する多様な分子病態(Endotype)を、より明確にすると同時に、個人の遺伝情報からどのようなPhenotype/Endotypeを有するリスクが高いかを予測する統計学的なモデルの構築を目指すために重要な基礎データとなることが期待される。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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