研究課題
申請者らは40歳以上で発症した喘息を対象としたGWASを施行し、ムチン様蛋白をコードするHCG22遺伝子(Yatagai et al. JACI 2016)を新規の喘息感受性遺伝子として同定した。HCG22は過去にDPB感受性遺伝子としてクローニングされていた遺伝子であり、予測されるアミノ酸配列からは特にキチン結合タンパク様の構造を有すると考えられた。HCG22と同様のキチン結合蛋白としてYKL-40が知られている。我々はYKL-40の遺伝子発現量と関連するSNPs(eQTLs)が特に成人発症喘息と関連することを確認した(未発表)。HCG22やYKL-40遺伝子は、その機能からは肺の粘膜免疫やマイクロバイオームの維持に重要な役割を果たすと考えられ、特に成人発症喘息やCOPDにおける気道への細菌のコロナイゼーションや好中球性炎症と関連する可能性がある。また、ウイルス感染感受性については、最近、欧米において増悪を繰り返す小児喘息患者のみを対象としたphenotype-specificなGWASによって同定されたCDHR3遺伝子はライノウイルスCの受容体であることが報告された。日本人成人喘息を対象とした我々の検討においても、特に10歳までに発症した成人喘息ではCDHR3遺伝子の有意な影響が認められた(Kanazawa et al. Allergol int, 2017)。これらの知見からは、小児期発症のアトピー型喘息患者ではウイルス感染への易感染性が疾患発症の分子基盤となっている可能性がある。一方、過去に欧米で報告されている23の呼吸機能関連遺伝子情報を用いて、呼吸機能に対する遺伝的Risk Scoreを構築し、健常成人に比べ喘息及びCOPDにおいてGRSが有意に高値であることを確認した。特にGRS高値と関連する喘息クラスターを探索したところ、小児発症、呼吸機能低下、アトピーで特徴付けられる一群との強い関連が認められた(Yamada et al. PLOS ONE 2016)。
2: おおむね順調に進展している
喘息やCOPDの多様なフェノタイプを形作る種々の分子病態を明らかにし、複数の論文として報告してきている。これまでに明らかにした分子病態として、特に肺の発達障害、ウイルス感染、細菌のコロナイゼーション、は難治性気道疾患において極めて重要と考えられ、今後個人の遺伝子情報からどのようなフェノタイプ、エンドタイプを有する可能性が高いかを予測する統計学的モデルの構築にも有用な情報となる。
約1000名の健常成人を対象に、高感度CRPおよびIL-6を対象とした全ゲノム関連解析を実施した。IL-6遺伝子やその受容体遺伝子などのいくつかの重要な遺伝因子が同定されてきた。2型免疫応答の制御に重要な役割を有するTAM受容体チロシンキナーゼ(Tyro3)遺伝子がアトピー性喘息と関連することが欧米のGWASにて報告された。Tyro3は過剰な2型免疫応答に対してブレーキとしての役割を有するが、Tyro3の遺伝子発現低下と関連する対立遺伝子がアトピーと有意に関連するかどうかを日本人成人集団において検討する。さらに本年度は増悪の有無についても焦点をあてる。喘息やCOPDの増悪は疾患の重症化や死亡に大きく関わっている。喘息とCOPDのいずれにおいても、末梢血好酸球数、気流閉塞、喫煙、鼻炎、肥満や胃食道逆流などが増悪と関連することが既に知られているが、これらの増悪因子とは独立して、過去の増悪自体が将来の増悪の最大のリスク因子であり、頻回の増悪を経験するExacerbation prone asthma (EPA)の存在が示唆されている。我々のこれまでの結果も踏まえ、喘息、COPDを種々の臨床情報に複数の遺伝子情報を加味したクラスターに分類することで、特定の分子病態と表現型との関連をより明確にすることが可能となる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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