研究課題
急性腎障害(AKI)は、生命予後、疾患重症化や医療費高額化に直結する重要な病態だが、有効な治療法が存在しない。本研究では、分泌型 fibroblast specific protein 1 (FSP1) が、抗アポトーシス作用および抗酸化作用を介して、AKI新規治療薬として有望であるかを検討している。また、ポドサイトでFSP1を過剰発現する遺伝子改変マウスを用いて、ポドサイト-尿細管上皮細胞連関の存在を検討している。先ずわれわれは、分泌型FSP1の新しい生物活性を検出する目的で網羅的遺伝子解析を実施した。培養メサンギウム細胞と尿細管上皮細胞において、分泌型FSP1は抗酸化作用を有するヘムオキシゲナーゼ1 (HO-1) mRNA発現量を約3倍に増加させ、活性酸素産生を誘導するエンドセリン1 mRNA発現量を1/10以下に低下させることが明らかになった。さらに、ROSアッセイキットを用いて活性酸素産生誘導を検討した結果、分泌型FSP1はシスプラチンによる尿細管上皮細胞の活性酸素誘導を63%抑制可能であることが確認できた。次に、ポドサイト特異的にFSP1を過剰発現したマウス(FSP1.TG)を用いて、ポドサイトから分泌されるFSP1に尿細管上皮細胞保護作用があるか否かを、シスプラチン腎症マウスを作製して検討した。FSP1.TGでは、野生型マウスと比較して、有意に間質尿細管病変が軽減していた。腎機能の悪化も有意に抑制していた。TUNEL法によるアポトーシス細胞数を測定したところ、FSP1.TGで有意に減少していた。さらに、エクソソーム含有FSP1の存在を確認した。ANCA関連腎症患者の尿検体からインビトロジェン社製のエクソソーム抽出キットを用いて精製したエクソソームにはFSP1の発現が確認された。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の柱となる実験データが順調に集積されている。
尿細管間質障害に対する分泌型FSP1の有効性をシスプラチン腎症および NEP25モデルを用いて検討する。FSP1群には、シスプラチン投与直前、投与24時間後と48時間後に腹腔内注射する。Vehicle群には生食を投与する。シスプラチン(20 mg/kg)をマウス腹腔内投与し、72時間後に腎臓を摘出し、病理学的検討(判定量的組織障害度、浸潤細胞数、アポトーシスを呈した尿細管上皮細胞数など)およびレーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)法を用いた mRNA発現解析(TNF-α, MCP-1など)を実施する。さらに、血液および尿(蓄尿)を採取し、腎機能、蛋白尿量や尿細管間質障害バイオマーカーを測定する。さらに、尿細管上皮細胞株(mProx)を用いて、シスプラチンで誘導されるアポトーシスや活性酸素産生に対する分泌型FSP1による抑制効果を、TUNEL法およびROSアッセイキット(コスモバイオ社)を用いて検討する。NEP25マウスは、マウスポドサイトにヒトCD25が発現する遺伝子改変マウスである。LMB2(抗hCD25モノクローナル抗体にexotoxinを付加したもの)を静脈内投与することで、糸球体硬化と蛋白尿惹起性尿細管間質障害が出現する。LMB2はロット差があるために、予備的検討にて2週間後に間質障害を誘導可能な適切な投与量を決定する。FSP1群には、蛋白尿が出現するLMB2投与4日後から腹腔内注射する。Vehicle群には生食を投与する。2週間後に腎組織を採取し、シスプラチン腎症と同様の検討を加える。さらに、FSP1含有エクソソームの尿細管上皮細胞への生物活性に関する検討を実施予定である。
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